◆老子小話 VOL 614 (2012.08.18配信)

閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声

(松尾芭蕉、奥の細道)

 

暑い日が続きますが、

皆様いかがお過ごしでしょうか?

蝉の声が耳の奥まで染み付き、

「奥の細道」のこの句を思い出しました。

芭蕉が、山形の立石寺を訪れたときに、

詠んだものと書かれています。

「岸を巡り、岩を這ひて、仏閣を拝し、

佳景寂寞として心澄みゆくのみおぼゆ。」

断崖を廻って岩を這い上がりして、

険しい道のさきに、森閑に包まれた岩に遇う。

耳の奥には道のりで染み付いた蝉の声が残り、

何も音は聞こえないが、岩と蝉の音が一体として、

静けさを作り出しているように思えた。

こんなふうに芭蕉の旅を追体験しました。

蝉は命をすり減らして声を張り上げます。

鳴いたために死ぬのか、死ぬために鳴くのか、

わかりませんが、蝉の命を懸けた声には

生命のけなげさを感じます。

道端にみる静謐な蝉の死骸は、

まっとうした生の美しさを放ちます。

日本人の感性は、自然と一体になって、

命の尊さを実感できるところにあるかなって、

この句は気づかせてくれました。

 

有無相生

 

 

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