◆老子小話 VOL 604 (2012.06.09配信)

さみだれや名もなき川のおそろしき

(与謝蕪村)

 

もうすぐ梅雨の季節となります。

五月雨は旧暦の5月の雨ですので、

ひと月遅れの梅雨になります。

蕪村といえば、

「さみだれや大河を前に家二軒」が有名です。

昔の旅人は自分の足で歩いたので、

雨で川が増水すると、水が引くまで足止めを食います。

空を見上げながら一句詠むときを得る。

「大河を前に家二軒」は、雄大な情景で

一幅の水墨画が浮かびます。

一方名もなき川は橋も短く歩いて渡れるほどの川です。

増水しても無理に渡る旅人もいたでしょう。

ところが、地元の人から、かつて水に流され

命を落とした旅人の言い伝えを聞き、

川の恐ろしさを実感したかもしれません。

さみだれで、ふだんの穏やかな流れが、

浅瀬も消えてしまう激流に変わる。

川幅は短くとも足を掬われる。

穏やかな雨と急な川の流れという

対照的な時間変化の中で、

流れを見つめる旅人の心理が揺れ動く。

「大河を前に家二軒」が時空の雄大さなら、

こちらは、時々刻々と水の流れと旅人の心理が

絡み合いながら変化していく、

変化の面白さを教えてくれます。

蕪村さん、今回もありがとう。

 

有無相生

 

 

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