◆老子小話 VOL 530 (2011.01.08配信)

生み出しながら所有せず、

為して誇らず、

衆に長じても主宰せざる玄妙の徳を

具えたりと雖も、しかも剽軽なり。

(玄侑宗久、「アミターバ」)

 

「アミターバ」(新潮文庫)の162ページに出てくる

慈雲さんの香語です。

この小説は、肝臓がんを患った主人公の語りで

全篇を通されるが、読んでいるうちに、

自分と主人公が一体となるような変な気分になる。

主人公は、自分の葬式まで垣間見る。

義理の婿で僧侶の慈雲さんから、

上の告別の言葉を賜る。

この言葉、老子のどこかに出てきそうである。

探してみると、ぴったりあうところはない。

近いところでは第十章だろうか?

「生じて有せず、為して恃まず、長じて宰せず。」

これを玄徳というが、

主人公の私(大阪のおばちゃん)は、玄徳を具えていても、

剽軽(ひょうきん)でいられるので、老子の上を行く。

最高の贈り言葉で送られる私(主人公)が羨ましい。

寝床で読みながら、臨死体験を味わい、

果たして、明朝、目を覚ますことができるだろうかと

ちょっと心配になる。

私と一緒に光の国に行ったまま帰れなくても、

あの世で迎えてくれる知人はきっと居る。

死ぬのが怖くなくなるような小説だった。

 

有無相生

 

 

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