◆老子小話 VOL 501 (2010.06.19配信)
愚痴無智の あま酒造る 松ケ岡
(蕪村)
今回は近所の鎌倉にまつわる句をお届けします。
松ヶ岡は、鎌倉松ヶ岡(今は山ノ内)にある東慶寺です。
このお寺は、臨済宗の尼寺で、昔から縁切寺、
別名駆け込み寺で知られています。
西田幾多郎さんや鈴木大拙さんのお墓もあります。
江戸時代は、女性から離婚を請求することができず、
幕府公認の縁切寺に駆け込んで、だんなへの愚痴を
こぼしたわけです。
愚痴無智は、愚かで浅はかなことです。
でも、所詮人間は愚痴無智であることを
自覚しなきゃいけない。
駆け込んだ直後、愚痴をまくし立てる女性に
尼さんは、「まあまあ、あま酒でも召し上がってから、
お話を伺いましょう」と返す光景が浮かびます。
緊張から弛緩への緩やかな流れが、あま酒で芽生える。
あまと尼をかけているのは蕪村さんの洒落ですか。
さらに言うと、あま酒を造る尼さんだって、
修行の途中であり、愚痴無智に過ぎません。
ここまで来ると、なかなか深い句になりませんか。
是非一度、東慶寺を御出でになりこの句を
味わってみてはいかがでしょうか。
有無相生