◆老子小話 VOL 496 (2010.05.15配信)

相反するものの間を振子が往復することが、

二人の人間の関係を豊かにするのでは

ないだろうか。

(アン・モロウ・リンドバーグ、「海からの贈物」)

 

「海からの贈物」は、辰濃和男氏の「ぼんやりの時間」

(岩波新書)で紹介されて知りました。

取り上げた文は、吉田健一訳(新潮文庫)です。

著者は、大西洋横断飛行に初成功したリンドバーグ大佐の

妻ですが、書ではそれには触れず、一人の人間の思索を

語っています。

「人間的な関係も島のようでなければならない」

精神は恒久的な持続に執着する。

恋人との関係なら、親密な関係が続くことを願う。

でも現実は、愛は断続的なものとなる。

時には独りになり、そんな関係を忘れ、

将来を考えたい場合だってある。

ひとは皆、触れ合いと孤独、個別と普遍、

身近なものと遠いものなど、相反するものの間を

振子のように行き来し、人間関係が豊かになる。

海に囲まれ、潮の満ち引きに身をまかす島のように。

この振子の考えは、老子第二章の

「有無は相い生じ、難易相い成し、…」に通じる。

相反する価値観にとらわれずに、無理をしないことです。

孤独の二人が出会うことで、触れ合いが生まれ、

触れ合いにこだわらずに、もっと普遍的な関係を求めれば、

二人を核に人の繋がりは広がり、二人の関係も豊かになる。

それは言い換えると、偶有性を受け入れた生き方である。

彼女の海での思索は、老荘的な贈物をもたらしました。

 

有無相生

 

 

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