◆老子小話 VOL 478 (2010.01.09配信)

ほとんど無意識のうちに、

人は自分だけのフィクションを作り上げ、

そこに心を漂わせることで、

現実を乗り越えようとしている。

(小川洋子、博士の本棚)

 

新年があけて早一週間が経ちました。

今回は、わたしが好きな作家、小川洋子さんの、

「博士の本棚」(新潮文庫)からお届けします。

「フィクションの役割」にある言葉です。

見えないものを感じ取るためには、

物語のなかに身を置くことであり、

その物語をひとの心に提供するのが作家という。

老子、荘子の文章も、暗示的なあるいは寓話的な

表現で、フィクションを読む人の心に生み出す。

心をそこに遊ばせることで、ひとは生きるパワーを得る。

今回の言葉で、「自分だけのフィクション」が面白い。

同じ物語を読んでも、その境遇により、ひとは、

異なるフィクションを内に作り出す。

作家は語り部であり、言葉の石を積み上げるしかない。

物語の情景から読者が何を感じるかは、読者次第となる。

「博士の本棚」の中で、何回何回も読んだ本を、

「死の床に就いた時、枕元に置く七冊」として紹介する。

読む度にフィクションが変容していく本のようである。

老荘の教えが今まで生き残ったのは、

わざとあいまいな表現をして、感じるフィクションの幅を広げ、

様々な現実に対応できるからではないでしょうか。

老荘は、小川さんの7冊に入っていませんが、

私の7冊には入れたいと思います。

 

有無相生

 

 

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