◆老子小話 VOL 446 (2009.05.30配信)
雨が降り出すとどうしてこういうものが
近くに匂うのか。
(松浦寿輝、「夕占」)
こういうものとは、
「樹や草や土の匂い、虫の死骸や犬猫の毛皮や
家々の台所の煮炊きの匂い」である。
松浦さんの「もののたはむれ」(文春文庫)から
拾いました。
雨の日には嗅覚が鋭敏になるのは、
日常経験で感じるところである。
雨に、匂いの分子を辺り一面に拡散する
働きがあるのか、匂いと匂いをミックスする働きがあるのか
わからない。でも、ふだん嗅いだことのない匂いを
雨の中で嗅ぐのはよくあることである。
松浦さんの小説は、匂いで生命を表出する。
「潮の香とは死と腐敗の匂いであり、死と腐敗を
通じて絶えず新しいものへと生まれ変わりつづける
生命の匂いなのであろう。」(「彗星考」)
生物は細胞の死を続けながら生きている。
がん細胞は死を忘れた細胞である。
もうすぐ梅雨の季節である。
雨の中でどのような匂いが嗅げるのか
鼻をきかせてみてはいかがでしょうか。
記:有無相生