◆老子小話 VOL 431 (2009.02.14配信)
生き残る 我にかかるや 草の露
(小林一茶、父の終焉日記)
一茶の故里、北信濃柏原の
一茶記念館で買い求めた
「父の終焉日記」(岩波文庫)より一句。
病床の父を看病してから臨終までの
ひと月の日記のうち、二十三日目の
野辺送り後の骨ひろいの感慨である。
「するすみの、水の泡よりもあはく、
風の前のちりよりもかろき身一つの境界なれど、
只きれがたきは玉の緒なりき。」
無一文で、水泡のような、風前の塵のような、
不安定な人生だが、切れていないのは、
命の綱だけだと感じている。
「きれがたき」に想いは込められている。
生きようと思って生きているのではない。
生かされているから、切れにくいのである。
草の露がふりかかる限り、生き残っている自分。
「我にかかるや」の表現が面白い。
自然の偶然性に感謝する気持ちが込められる。
生きたいと思って降りかかるのではない。
たまたま降りかかったのだ。
だから、その露が残っている偶然にも感謝できる。
何気なく手にした一冊が、古人の思いに遭遇する
チャンスを与えてくれた。
また、生きる元気も与えてくれた。
記:有無相生