◆老子小話 VOL 395 (2008.06.07配信)
よのなかを
憂しとやさしと 思へども
飛び立ちかねつ
鳥にしあらねば
(万葉集、山上憶良)
「憂し」は、つらいこと。
「やさし」は、身がやせるほど、恥ずかしいこと。
世のなかに生きていれば、
つらいことや恥ずかしいことに何度も出会うが
鳥じゃないので、飛び立つわけにはいかない。
中西進さんの「ひらがなでよめばわかる日本語」
(新潮文庫)のなかで見つけた歌です。
「やさし」の語源に興味を持ちました。
今「やさし」というと、「優しい」か「易しい」を考えます。
でも、生まれは、「やす」(=身が痩せる)から来ている。
相手の振る舞いを見て、自分の身がどうなるのかを
表現している。例えば、心の澄んだ人に会い、
身が引き締まる思いがしたとき、「やさしい」といった。
本来は、かなり重い言葉であったようです。
中西さん曰く、
「地球にやさしい」という言葉は、
軽々しく言ってはだめで、
「地球」というかけがえのない存在を前にして、
日頃の消費生活を恥ずかしく感じ、
地球環境に責任をもって始めて、
口にできる言葉になるそうです。
漢字文化に毒されている自分に気づかされました。
やまとことばの意味するところは同じだったが、
いろんな場合に派生する意味を
漢字に当てはめたのが日本文化のようです。
やまとびとの気持ちを教えてくれた本でした。
記:有無相生