◆老子小話 VOL 385 (2008.03.29配信)

さまざまの事おもひ出す櫻かな

(芭蕉、笈日記)

 

さくらの季節にちなんで

芭蕉の句をお届けしました。

さくらを見て、花見の光景だけを

思い出すわけではありません。

ひとそれぞれに、入学式を思い出したり、

親しい人との別れを思い出したりする。

出会いと別れの思い出が、

櫻咲く光景、櫻散る光景とともに、

記憶の中に詰め込まれている

ひとの記憶は、ある出来事に対し

自分が感じたことを、背景のイメージとともに

脳に記録されたものである。

だから、似たような光景に出会うと、

その出来事が連想として想起されるようになる。

あるひとにとって美しい光景が、

別のひとには悲しい思い出になる。

雨に濡れる紫陽花の花が、自分には、

弟の死を思い出させる光景となる。

でも、同じ光景にさまざまな思い出が重なると、

悲しみは、後の喜びで癒され、

喜びは、後の悲しみで光を帯びる。

自然の光景は毎年繰り返されるが、

人生の光景はその繰り返しの上に重層する。

自然に対する目が深まるほどに、

人生の記憶は、より豊かになるように思われる。

 

記:有無相生

 

 

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