◆老子小話 VOL 361 (2007.10.13配信)

門を出(いず)れば 我も行人 秋の暮れ

(蕪村)

 

私の好きな森本哲郎さんの

「日本人の暮らしのかたち」(PHP文庫)の

「あやしの枝折戸」で取り上げられた句である。

森本さんより蕪村の面白さを教わりました。

 

行人(いくひと)は旅人のことである。

門の外には、旅人が行きかう。

自分も門を出れば、その旅人の足に連れられて

旅に行きたくなってしまう。

秋は日が早く落ち、その暗がりでは、

旅人と自分の区別もつかなくなってしまう。

そんなモノトーンの光景における人の動きが、

秋の暮れを感じさせる。

昔の旅は、一度出かけると、

途中で行き倒れる可能性を秘めている。

旅人は、死を覚悟して、門を出る。

行人(いくひと)は、「逝く人」でもある。

運悪く亡くなった人は、道を折れた人とも言える。

「逝く」は、行ったきり戻らない意味であり、

生の道を折れ、永遠の道に入ったとも言える。

「我も行人」と詠んだ蕪村は、旅の果てに

霊魂になったとしても旅にあこがれる。

門を出でて出会う旅人は、既に黄泉の国に

旅立たれた故人かもしれない。

とすると、旅路は、今の時間と過去の時間が

交錯する世界であり、故人の体験した光景を

追体験できる機会を与えてくれる。

秋の夕暮れに道を歩けば、

片時の旅人になれるかもしれない。

 

記:有無相生

 

 

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