◆老子小話 VOL 344 (2007.6.16配信)
みじか夜や 浅瀬に残る 月一片
(蕪村)
夏の夜は短い。
空が白んでいるのに、
月が浅瀬に取り残されたように
水面にまだ揺らいでいる。
眠れない夜を過ごしたのであろう。
月も私も。
夜が明けるにつれ、あんなに明るく
私を照らしていた月も、
色褪せたようになる。
消えはてるまで浅瀬に残る月は、
或る初夏の日に逝った
肉親の魂の炎かもしれない。
勝手な想像のもとに
こんな情景を描いてしまった。
人生もまた、夏のみじか夜の如きもの。
老いた自分は、まるで浅瀬の月一片か。
取り残され、色褪せても、
水に浮かぶ月のように、
最後まで、変幻自在に生きてみたい
蕪村の句にはいつも、流れる時空を表現する
一幅の絵が感じられる。
記:有無相生