老子小話 VOL 1276(2025.05.10)

牡丹散て打かさなりぬ二三弁

(与謝蕪村)

 

今回の言葉は、俳人蕪村よりいただきます。

新緑が目にまぶしい季節になりました。

牡丹の花は4月5月に咲くということでこの句を取り上げました。

花の色は淡桃色から乳白色があるということで、花言葉は高貴だそうです。

蕪村の句には動きがあり、鮮やかな色をした花びらがひらひらと落ちる様がうかがわれます。

あたりは無風で、二三弁の花びらはきれいに重なって着地する。

蕪村はその動きを見ていたかもしれないし、落ちた姿を見て落ちる光景を思い浮かべたのかもしれない。

いずれにせよ、その光景は一枚の画に納まる。

「蕪村全句集」(おうふう出版)の注には、「禅林句集」の「西風一陣来 落葉両三弁」が載っています。

西風なので秋に吹く冷たい風が吹いて、落ち葉が二三枚庭に落ちる。

禅語なので、自然のなりゆくままに任せればよいという意味になるかと思われます。

蕪村がこの言葉からヒントを得たかは定かではありませんが、注に挙がっているところをみるとそうなのかもしれません。

しかし、蕪村は季節を晩秋から初夏に移し、風の動きを止め、色彩を鮮やかにしました。

牡丹の花は風が吹いて落ちたのではなく、自然に直下に落下したために、花びらは重なっている。

花びらが軽ければ空気抵抗を受けて、無風でも散らばってしまう。

しかし牡丹の花はある程度重いので、そのまま直下に落下した。

蕪村のオリジナリティは、「西風一陣来 落葉両三弁」からヒントを得たにしても、斬新な飛躍があります。

今の季節ならではの光景を鮮やかな動画にして17文字に収めている。

花びらが打ち重なるときの音さえ聞こえるような、静寂の中の光景に思われます。

先人の作品に、日本人の感性を読み取る機会を得ました。

 

有無相生

 

 

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