老子小話 VOL 1275(2025.05.03)

消火は放火ほど容易ではない。

(芥川龍之介、「侏儒の言葉」)

 

今回の言葉は、芥川龍之介氏よりいただきます。

今朝平野啓一郎氏の芥川を語る講演をYouTubeで聴いて、「侏儒の言葉」を開き、そこで見つけました。

世間智と題された言葉です。

最近アメリカでも日本でも起こっている山火事。

放火とは言いませんが、一度森に火がつくと消すのは容易なことではない。

この言葉のあとに、こういう世間知から学んで、恋人を作るときもちゃんと別れることを考えている人もいると書いています。

火をつける前から、火を消す方法もちゃんと考えておく。

ところが人間の知恵は浅はかなもので、いくら考えても現実は予想外のところに進んでいく。

ウクライナ戦争もガザ紛争も、始めた当人は短期的な勝利で治まると読んでいたのが、いろんな状況が重なり、収拾がつかなくなってくる。

日本が起こした満州事変も最終的に太平洋戦争の火種となり、最後は原爆投下の悲劇まで招きました。

火種を巻いておいて、火事が大事になると右往左往する。

結末がわかっていたなら、火などつけなければよかったと思うのですが、道を踏外すとなかなか戻れないのが普通です。

世間智と呼ばれるくらいなので、人類は似たような過ちを何度も繰り返してきたに違いありません。

芥川氏が例に挙げた恋愛ですら、消火に失敗して殺人事件に発展する場合があります。

そもそも火というのは、燃えるものと燃やすものが関係しあいながら広がっていきます。

風が吹けば、火は勢いを増し、また火の粉となって別の場所にも火を起こしていく。

人間が頭で起こした火は、自然環境の中で変化して広がっていくので、結末は頭で考えた範囲を超えていく。

マイクロプラスチックによる環境破壊も、困難さを増しています。

今回の言葉は、身近な言葉として響きます。

老子は、問題は大事になる前の小さいうちに処理しておけといいます。

火もまた、小さいうちに消すしか方法はありません。

そのために、火を放っている事態を常に監視しておく必要があると感じました。

 

有無相生

 

 

戻る