◆老子小話 VOL
1253(2024.11.30)
闇がなければ光はなかった
闇は光の母
光がなければ眼はなかった
眼は光の子ども
眼に見えるものが隠している
眼に見えぬもの
人間は母の胎内の闇から生まれ
ふるさとの闇へと帰ってゆく
つかの間の光によって
世界の限りない美しさを知り
こころとからだにひそむ宇宙を
眼が休む夜に夢見る
(谷川俊太郎、「闇は光の母」)
今月の13日に、谷川俊太郎さんが亡くなりました。
今回の言葉は、谷川さんの詩「闇は光の母」の冒頭部分を抜粋しました。
光と闇の関係を温かな目で眺め、流れるようなリズムで表現しています。
宇宙の始まりも闇の世界です。
眼は光の子どもというのは、すばらしい表現です。
人間にとって、光を通して物の存在を認識するので、光をキャッチする眼は光の子どもになります。
でも、光なしに存在しているものもある。
最新の宇宙物理学でいうところの、ダークマターです。
従って、光を通した認識だけを信じるのではなく、光を放たない存在にも注意しなくてはいけない。
その闇に隠れる存在もまたこの宇宙や世界を支えている。
この詩はそんなことを語ります。
母の胎内の闇というのは、現実とはちょっと異なっているようです。
というのは、胎児は母親のお腹のを通して光を感じており、闇に閉ざされてはいない。
しかし、受精して細胞分裂して、眼ができる前は確かに闇のなかです。
そう見ると、ひとの一生は闇から生まれて闇に帰っていく。
では、生きている間の光とは一体何なんだという問いが生まれます。
世界の美しさを見せてくれる光です。
自然の景色の美しさだけでなく、宇宙の神秘の美しさも、X線や電波という光によって観測される。
しかし、光だけを当てにして眼を凝らしてばかりいると、眼が疲れてくる。
今の若い世代は、スマホを見続けて視力低下を起こしている。
光がなくても見ることができる映像が夢です。
人間のからだはうまくできている。
眼を休ませるために夢を見る。
谷川さんの詩は、ロジカルに言葉をつなげながら、光と闇の関係を語っていきます。
詩の最後までお届けできませんが、最後は、闇の愛を恐れてはならないで終わります。
タオイストの眼から見ると、闇は無にあたります。
光は有の世界を示してくれる。
しかし、眼に見えない闇は光の世界を裏側から支えている。
無(闇)である陰と有である陽(光)が、入れ替わり立ち替わりするのが現実の世界です。
トランプ氏が大統領選に勝利するのも、闇の愛なのかもしれません。
有無相生