老子小話 VOL 1247(2024.10.19配信)

尾花ゆれて 月は東に 日は西
(山頭火)

 

今回は、山頭火の句をお届けします。

尾花というのは、ススキのことです。

秋も真っ盛りですが、夕日を浴びてススキの穂が風にゆれている景色をみると、一抹の寂しさを覚えます。

この句は、蕪村の句、「菜の花や 月は東に 日は西に」と対照的です。

夕暮れになって周りが暗くなっても、菜の花の黄色はますます鮮やかに見えます。

春の穏やかな風景です。

一方、ススキは色の鮮やかさはありませんが、風にゆれるその姿は自然に身をまかせる孤独さを象徴しているかのようです。

「月は東に 日は西に」見える同じ時刻ですが、見る景色はまったく対照的です。

山頭火は、放浪の俳人で自由律俳句を作っていますが、こんなパロディのような句もありました。

きっと旅の途中で、ススキの草原を通ったときに思いついたのかもしれません。

ススキの穂は狐のしっぽのようにふわふわしているので、尾花の尾は狐のしっぽを表しているのでしょう。

風がそよぐたびに穂が揺れるので、ススキ原を一人で歩いていると、狐がだましに来ると思ったりします。

「狐火の 燃えつくばかり 枯尾花」という蕪村の句があります。

狐火は、狐の口から出た火で、寂しい山野で光って見える燐火のことです。

枯れススキに火を放つような狐まで想像してしまいます。

このようにススキと狐は言葉の上でも、感覚の上でもつながっているようです。

ひとり野原を歩いているときの恐怖心が、ススキの穂に似ている狐の尻尾を連想させ、狐のいたずらのように思ってしまう。

徒歩で旅をした昔の人の心の中が見えてくる句でありました。

このような追体験をしに、ススキ原に遊びに行くのも一興です。

 

有無相生

 

 

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