◆老子小話 VOL
1239(2024.08.24配信)
遺伝、境遇、偶然、━ 我々の運命を司るものは畢竟この三者である。
自ら喜ぶものは喜んでも善い。
しかし他を云々するのは僭越である。
(芥川龍之介、「侏儒の言葉」)
岸田首相が次期総裁選に立候補しないと表明してから、総裁選に出馬する方が乱立しています。
米国では、大統領選挙に向けて、カマラ氏とトランプ氏の論戦が熱気を帯びています。
国の運命を左右する出来事ですが、個人の運命に関するお言葉を芥川氏からいただきました。
芥川龍之介といえば、短編小説のレジェンドですが、「侏儒の言葉」という警句集も書いています。
われわれの運命を支配するのは、遺伝、境遇、偶然の三つだという。
政治家に二世、三世が多いのも、政治家の家に生まれついて、地盤を受け継いで当選するように、境遇が運命を支配する。
親が近眼なら、子供も近眼になる可能性は高くなる。
わたしも、近眼で苦労した場面に多く出会いました。
交通事故や天災では、自分ではどうすることもできない偶然が、自分の運命を決めてしまう。
幸運に恵まれてきたものは、自分の幸運を喜んでもよい。
しかしながら、他人の運にとやかく言うのは出すぎた真似だと芥川氏は言います。
遺伝は、生まれながら背負ったもの。
境遇は、自分が置かれた家庭、経済状態、人間関係、社会的な身分や地位で、一言で言えば、自分の生い立ち。
そこには、自分ではどうすることもできなかった要素が含まれる。
偶然はなおさらで、神のみぞ知ること。
自分の幸運をどう思おうがそのひとの勝手である。
しかし、他人の幸運を恨んだり、不運をほくそ笑むのはお門違いという。
運は運であり、どうすることもできなかった結果である。
その結果に対し、他人が云々してみても何も始まらない。
当の本人が、結果を素直に喜んだり、自分でできたことはなかったのかと反省するのは、本人の自由です。
芥川氏も、自分の運命について、他人から取りざたされたことがたびたびあったのでしょう。
うんざりする気持ちがこの言葉を生んだのかもしれません。
有無相生