◆老子小話 VOL
1233(2024.07.13配信)
並列はすなわち現状維持っていうやつですよ。
直列の夢に毒されて容量を度外視し、やみくもに足し算をつづければコイルが焼き切れる。
それなら電池を節約しながら現状を維持したほうがいい。
(堀江敏幸、「河岸忘日抄」)
今回の言葉は、今読んでいる堀江敏幸氏の小説からお届けします。
昔理科の実験で、豆電球と乾電池を使った実験をやりました。
2個の電池を直列つなぎにすると豆電球の明るさは、電池1個の場合の2倍になる。
他方、並列つなぎにすると豆電球の明るさは変わらない。
直列つなぎでは、豆電球のフィラメントに電池1個の場合の2倍の電流が流れるので、フィラメントの寿命は短くなる。
並列つなぎでは、豆電球のフィラメントに電池1個の場合と同じ電流が流れるので、フィラメントの寿命は現状維持される。
一方電池の寿命は、直列つなぎでは電池1個の場合と同じで、並列つなぎでは2倍に延びる。
それを説明したのが今回の言葉です。
しかし意味するのは、生き方の問題となります。
資本主義の世の中では、資本を再投入して生産の拡大を狙い、成長を続けようとする。
これは入力を倍増して、見合った分の出力を得ようとする直列型の生き方。
他方入力はそのままで、現状維持に必要な出力で満足する並列型の生き方もある。
直列型の生き方では、欲望の拡大再生産にいずれ疲れ果てるのは目に見えている。
これを、「コイルが焼き切れる」と表現しています。
他方並列型の生き方は、今様の言葉でいうとsustainable(持続可能な)になりましょうか。
地球環境も壊さず、資源も使いすぎず、美しい地球で平和な生活を維持し続けるための生き方です。
タオ的に言えば、知足にならう生き方でしょう。
現状維持というとネガティブに考える人もいますが、高齢になるとこれほど難しいことはないと気付きます。
世界各地から異常気象が報じられ、地球環境すら現状維持できない状況にあります。
身の回りの生活でも物価高、年金制度崩壊の兆しも見られ、自身の体力低下も加わり、現状維持も夢になりつつあります。
自分にとってどのようなファクターを並列つなぎして現状維持を保つか、堀江氏の言葉をきっかけに考えさせられました。
有無相生