◆老子小話 VOL
1203(2023.12.02配信)
勧君金屈卮
満酌不須辞
花発多風雨
人生足別離
(于武陵、「勧酒」)
君に勧む金屈卮(きんくつし)
満酌辞するを須(もち)いず
花発(ひら)いて風雨多く
人生別離足る
あれよあれよという間に12月となり、今年もひとつきを切りました。
時間の経つのは速いですね。
忘年会シーズンなので、今回はお酒にかかわる漢詩をお届けします。
于武陵(うぶりょう)という晩唐の詩人の作品ですが、井伏鱒二氏の名訳で有名だそうです。
題も「酒を勧む」といい、今にぴったりの詩です。
金屈卮というのは、取っ手つきの金色の杯だそうです。
「君に黄金の杯を勧める。
なみなみと注いだのを遠慮せずぐっとやってくれ
花が咲けば雨や風も多い
人生に別れはつきものだ」
人生足別離は、井伏訳では、「サヨナラだけ人生だ」となっています。
酒を飲むというのは、心を開いてそのいっときを楽しむことです。
まさに一期一会で、飲み屋で隣の客とその場で時間を共有するようなもの。
主人に黄金の杯で酒を注がれると、客人はそうがんがんと酒は飲めません。
ところが主人はがんがんいってくれという。
どうしてなのかと思ってしまう。
人生花が開くこともあれば、風雨に苦しむこともある。
同じ状態がいつまでも続くことはない。
人生は別れで満ちている。
年末飲むチャンスがあっても、来年また一緒に飲めるとは限らない。
いまこの時を楽しんでくれというのが主人の願いです。
お酒が飲めない人も、一期一会を楽しむことが目的と考えれば、忘年会に参加できると思います。
一期一会で、普段見えなかった相手の側面を知ることができます。
酒飲み人間は、酒を飲むことが忘年会の目的ではなく、人生足別離の真実を参加者と共にかみしめることだと自覚すべきでしょう。
于武陵の詩も、そこらへんを物語っているようです。
有無相生