老子小話 VOL 1196(2023.10.14配信)

Since when does a militarily occupied people have the responsibility for a peace movement?
(Edward Said) 

 

軍事占領された国民が、いつから平和運動に責任を持つようになったのか?

 

イスラム武装組織ハマスによるイスラエル攻撃のニュースが報じられ、世界に衝撃が走りました。

パレスチナ自治区のガザを実効支配するハマスの行動は確かにテロです。

しかし、イスラエルに土地を奪われ、学校や病院を攻撃され、家族や友人を失い、反感をもつパレスチナ国民がいるのも事実です。

イスラエルはガザにひそむハマスを一網打尽にしようと地上戦を始める準備をしています。

今回は、エルサレムで生まれたパレスチナ系アメリカ人の文学研究者エドワード・サイード(故人)の言葉をお届けします。

サイードは、パレスチナ問題に関してアラブ人とパレスチナ人を擁護する発言を行いました。

1946年の英国統治時代のパレスチナにはパレスチナ人しかいませんでしたが、1947年にイスラエル人が国連の賛同を得て、パレスチナの国土の57%を得ることになった。その後、残りの土地にイスラエル人は入植を広げ、今ではパレスチナの国土の92%をイスラエルが軍事支配しています。

そもそもパレスチナの国土にいたパレスチナ人が追い出され、8%の土地に押し込められている状態に追い込められているわけです。

おまけにイスラエルは、アメリカの支援を得て、パレスチナ人だけではなくアラブ諸国にも軍事的に圧倒的な優位に立っています。

特にガザ地区は高い壁で包囲され、人や物の出入りが厳しく制限され、人口の7割が難民で、強制収容所のような環境にある。

そんな状況のもとで、サイードは上の発言をしました。

軍事占領された国民とは、イスラエルに軍事支配されるパレスチナ人のことです。

誰の責任で、パレスチナ人は難民化したのか?を問いかける言葉です。

自ら好き好んで難民化したわけではないのに、なぜ難民化したのか?

自分で平和運動を起こさなかったからか?

そもそもイスラエルにパレスチナの土地を与えたのは、第2次世界大戦で勝利した、英国、アメリカなどの戦勝国で当時国連を牛耳っていた国です。

アメリカはイスラエルに同調し、核兵器保有まで許しています。

入植地拡大を一度は非難したものの、目をつむってきて、イスラエルに元パレスチナの国土の90%を占領することを許した、欧米の罪は大きいわけです。

そんな状況のもとで生まれたイスラム武装組織が、民族の危機を訴えるのは理解できないことではありません。

かつてユダヤ民族がホロコーストで民族の危機を感じたことと同じです。

同じことをパレスチナ人に対して行うのか? とサードは次の発言で投げつけます。

You cannot continue to victimize someone else just because you yourself were a victim once — there has to be a limit”

「自分自身が一度被害者だったからといって、他の人を被害者にし続けることはできません。限度がなければなりません。」

テロに対し反撃をするのはわかるが、限度があるだろ、といいます。

9.11テロへの反撃で、核兵器開発のガセネタでイラク戦争まで始めたアメリカには限度がわからなかった。

イスラエルは、軍事力だけに頼っていては何の解決にもならないと認識をあらたにして欲しいです。

サイードの言葉から、ガザに閉じ込められて空爆にあっているパレスチナ人には、平和運動を考える余裕はない。

平和運動の責任は国際社会にあると、疑問文の形で訴えているように思います。

老子第63章にいわく、「怨みに報ゆるに徳を以ってす」。

限度を超えれば、恨みは増大して還ってくる。

共存融和の徳を以って応えれば、きっと必ず恨みは少しずつ減ってくる。

 

有無相生

 

 

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