老子小話 VOL 1194 (2023.09.30配信)

月見ればなみだに砕く千々の玉
(与謝蕪村) 

 

昨夜は中秋の名月を堪能できましたでしょうか。

今回の言葉は月にちなんで蕪村の句をお届けします。

月を見て抱く思いはいろいろあるでしょうが、平安時代の歌人大江千里(おおえのちさと)は、

「月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど」

と詠みました。

「ちぢ」とは、千々と書き、数の多いさまを表します。

「月を見るといろいろなことが悲しく思われる。自分だけの秋ではないが。」

月を見るともの悲しく感じるのは日本人の感性かもしれません。

蕪村はこの感性を受けて、上の句を作りました。

月を見て思わず流れた涙が、月を無数の光の粒に砕いてしまった。

何というファンタジーの世界でしょうか。

眼からこぼれる涙ひとつひとつに月が映って、輝く粒に変わる。

それだけでなく、涙が落ちていくさまが、まるで月が砕けていくように見えるという。

蕪村の句では、月を見て感じる思いが、光の動きとして映像的に表現されます。

大江千里の歌より語数は少ないですが、表現するイメージはよりふくらみがあります。

画家の眼というか、感情を映像としてどう表現するか工夫しているようです。

そんなところが蕪村の魅力だと思います。

 

有無相生

 

 

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