◆老子小話 VOL
1194 (2023.09.30配信)
月見ればなみだに砕く千々の玉
(与謝蕪村)
昨夜は中秋の名月を堪能できましたでしょうか。
今回の言葉は月にちなんで蕪村の句をお届けします。
月を見て抱く思いはいろいろあるでしょうが、平安時代の歌人大江千里(おおえのちさと)は、
「月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど」
と詠みました。
「ちぢ」とは、千々と書き、数の多いさまを表します。
「月を見るといろいろなことが悲しく思われる。自分だけの秋ではないが。」
月を見るともの悲しく感じるのは日本人の感性かもしれません。
蕪村はこの感性を受けて、上の句を作りました。
月を見て思わず流れた涙が、月を無数の光の粒に砕いてしまった。
何というファンタジーの世界でしょうか。
眼からこぼれる涙ひとつひとつに月が映って、輝く粒に変わる。
それだけでなく、涙が落ちていくさまが、まるで月が砕けていくように見えるという。
蕪村の句では、月を見て感じる思いが、光の動きとして映像的に表現されます。
大江千里の歌より語数は少ないですが、表現するイメージはよりふくらみがあります。
画家の眼というか、感情を映像としてどう表現するか工夫しているようです。
そんなところが蕪村の魅力だと思います。
有無相生