◆老子小話 VOL
1190 (2023.09.02配信)
是非初心不可忘
時々初心不可忘
老後初心不可忘
(世阿弥、花鏡)
是非の初心忘るべからず
時々の初心忘るべからず
老後の初心忘るべからず
今回は、世阿弥の「花鏡」から有名な言葉をお届けします。
「初心忘るべからず」は、一度は耳にされていると思います。
能の大家世阿弥の言葉というのは初耳でした。
花鏡(かきょう)は能の芸論書で、年齢とともに芸は上達していくが、どの段階でも初心を忘れてはいけない、と説いています。
「是非の初心」というのが、初心者として芸を習い始めたときに抱いた心です。
どこがよくてどこがいけないのか、先生に言われたことを自分でチェックしながら、前に進む。
芸が少しずつ身についてきたとき、初心者としての態度を忘れることなく、至らない所に目を配りながら精進する。
老後になっても、自分の芸に甘えることなく、芸の究極を目指して精進を重ねる。
「初心忘るべからず」は、常に自分のレベルをチェックし、上を目指すことです。
これは他者と芸を競うというのではなく、自分との戦いともいえる。
とかく人間は、あるレベルに達するとそこで現状維持に動きがちになる。
葛飾北斎が画狂老人と自らを呼んだ、その姿勢が世阿弥の言葉に当てはまります。
「富嶽百景」を刊行したのが75歳のときで、90歳で亡くなるときに、
あと5年生きられたら本当に絵描きになれたかもしれないという言葉を残しています。
亡くなるまで初心を忘れなかったといえます。
芸の道を歩かないにしても、「初心忘るべからず」は、生きるうえで大切な言葉になります。
こどもの頃を思うと、何にでも興味があり、いろいろチャレンジして失敗を繰り返していました。
失敗が栄養となり、次の目標への道しるべになったようです。
老後になると、現状維持傾向が強くなり、新たな挑戦という意欲が弱くなります。
世阿弥の言葉は、挑戦によって見えてくるものがあると教えてくれます。
有無相生