老子小話 VOL 1184 (2023.07.22配信)

蛸壺やはかなき夢を夏の月
(芭蕉) 

 

今回は芭蕉の句をお届けします。

芭蕉が明石に泊まったときに生まれた句のようです。

明石と言えばたこ焼きですが、芭蕉の時代から、たこは有名だったことがわかります。

明石の夏の月を見てどんな夢を見るのか、芭蕉も思い浮かべました。

海底の蛸壺で寝たら、きっと涼しい夜をすごせて、平和な夢をみるだろうと。

たこになった自分を頭上から、お月様が見守っている。

そんな蛸壺のなかの自分を待っているのは、寝ている間に蛸壺ごとひき上げられて、たこ焼きにされる運命です。

平和な夢も一転して、はかない夢になってしまう。

たった17文字のなかに、たこになった自分を見てしまいます。

この句で、「夏の月」がポイントになるように思います。

空の上から蛸壺に眠るたこと彼の夢を見守る存在としての月。

そして「夏の月」には、昼間の暑さがやわらいだあと、頭上から涼感を降り注ぐ存在という意味もあるようです。

タオ的には、「夏の月」は自然であり、蛸壺は人間が閉じこもる人間社会だと考えてしまいます。

「夏の月」は、冷静に、蛸壺で人間が見る、はかなき夢のはてを見届けます。

芭蕉もきっと、「夏の月」にそんな思いを込めていたのではないでしょうか。

今年の夏は猛暑で、ヨーロッパでも40度を超える熱波が続いているそうです。

読者の皆様におかれましても、お体を大切にお過ごしください。

 

有無相生

 

 

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