◆老子小話 VOL
1183 (2023.07.15配信)
反者道之動。弱者道之用。
天下萬物生於有、有生於無。
(老子、第四十章)
反(かえ)る者は道の動なり。弱き者は道の用なり。
天下の万物は有より生じ、有は無より生ず。
いつの間にか梅雨が明け、蝉の声がしきりに聞こえる季節となりました。
季節がめぐるように、道の動きもめぐっていきます。
今回の言葉は、老子です。
反るは、かえると呼びます。
直線上をまっすぐ進むのではなく、円周上を周回しながら、中心がずれていくような動きをする。
道の働きは、強く現れるのではなく弱弱しい。
宇宙を含む、天下の万物は素粒子という有から生まれている。
素粒子という有は、無という道から生まれている。
科学によって道の仕組みは少しずつ解明されていきますが、その始原のナゾは解明できません。
人間と同じように星にも寿命があり、星が消えたあとに残った物質が次に生まれる星の素材になる。
存在が無になったとき、次の存在の生成に必要な有が生まれる。
「有は無より生ず」とは、何かが生まれるためには、何かが無にならなければならない。
でも、全くの無になるわけではなく、何かが引き継がれていく。
遺伝子も、確実に次世代に引き継がれていく。
同じように文化や文明も、確実に次世代に引き継がれていく。
老子がいうところの、回帰する原点は無だと思います。
無を通過して初めて、有が生まれる。
すべてを失ってみて、ものの有り難味や、ひとの心の有り難味を知る。
道の働きは、不意に心に思い当たるもので、じわっと感じるものです。
人間の心の動きも、確かに一直線上を突っ走るのではなく、行きつ戻りつしながら、ある方向に向かうようです。
大事なのは、もどるべき原点は何かということではないでしょうか。
老子の言葉は、その何かを教えてくれます。
有無相生