◆老子小話 VOL
1182 (2023.07.08配信)
汝不知夫螳螂乎、怒其臂以當車轍、
不知其不勝任也、是其才之美者也。
(荘子、人間世第四)
汝は夫の蟷螂を知らざるか。
其の臂を怒(はげ)まして以て車轍に当たる。
其の任に勝(た)えざるを知らざるなり。
其の才の美を是とする者なり。
今回の言葉は、荘子からいただきました。
前にも取り上げたことのあった言葉です。
「蟷螂の斧」として知られている教訓です。
蟷螂というのはカマキリのことです。
カマキリが通りかかった車の前に躍り出て、腕を振り上げて立ち向かう場面を想像してください。
当然ながら、カマキリは車に踏み潰されてしまう。
自分の力不足を認識せず、自分の才能をほこる人間の結末を暗示しています。
この話のあとに、虎を飼う人と馬を飼う人の話が出てきます。
虎が飼ってくれる人間に従っているのは、虎の自然の性質に従って飼っているからです。
生きた動物をえさに与えると、虎の獰猛な性質が外に出てくるので、そのようなことはしない。
馬を愛情深く世話していても、蚊や虻をのけようと腹をたたけば、馬は驚いて飼い主を蹴り上げて殺してしまう。
どんなに動物のことを熟知していても、それに溺れずに自分を戒め、慎重に行動してくださいという。
つい最近あった静岡県清水での橋げた落下事故も、この言葉を思い起こさせます。
人間何事も、慣れてくると注意散漫になる。
つい、いつもと同じと思ってしまって、ちょっとした変化に気づかない。
アハ体験の動画を見ていても、いつもと同じ光景だと思い込み、ちょっとした変化を見逃し、大きな変化にも気づかない。
目でちゃんと見ているようで、脳の中でいつもと同じ光景を作り出している。
映像の少しの変化にいちいち対応していたら、脳も疲れてしまう。
そのため、勝手にその変化をスルーしてしまう。
このような脳の惰性に、荘子は喝を入れているようです。
昨日までの無事は運がよかっただけ。
今日の無事は、最後は運でしょうが、慎重な行動が導いてくれると信じる。
それしかないようです。
有無相生