老子小話 VOL 1169 (2023.04.08配信)

樸散、則為器。
聖人用之、則為官長。
故大制不割。

(老子、第二十八章)

 

樸散ずれば則ち器と為る。

聖人はこれを用いて、則ち官の長と為す。

故に大制は割かず。

 

入学式や入社式も終り、新たな生活がスタートする時期でもあります。

今回の言葉は老子よりお届けです。

樸は朴の旧字で、切り出したままで、人工を加えない木(あらき)のことです。

「純朴な木がばらばらに分けられるといろいろな器になる。

聖人はこの器を働かせて、官僚の長とする。

従って、すぐれた切り分けは素材のままにして、細かく切り刻んだりしない。」

老子のこの言葉は、人材育成の基本となります。

親が子供を育てるとき、教師が生徒を育てるとき、上司が部下を育てるときの指針です。

日本が成長の時代だったとき、人材は金太郎飴のように、平均的な人材を育成しました。

平均的な人材は等価の部品として扱うことができ、いくらでも置き換えが可能です。

試験で言えば、全教科が平均して出来る人間が上位になりました。

何を売ればもうかるかがわかっている時代にはこれが役立った。

しかし、今は価値を創造しないと会社は存続できません。

何を売ればいいのかわからない時代です。

そんな時代に能力が均一化した人間は役立ちません。

もって生まれた素質を生かすようにして育成するのがよいというのが、「大制は割かず」です。

育成する側は、それぞれの人間の特質をどのように見抜くかが大事になっています。

最近、宇宙飛行士候補の最終選抜試験を追ったテレビ番組を見ました。

候補生をグループ化して、2週間閉鎖環境に閉じ込め、課題を与えて、個人がどう動くかを24時間監視して、適性を観たそうです。

素質を見極めるには、それなりの方法と時間と根気が必要になる。

宇宙飛行士でなくても、子供、生徒、部下の何気ない行動を常日頃注意深く観察する姿勢が、大事です。

個人の素質を見極めたあと、それをどう適所に配置するかも、「大制は割かず」の課題です。

言うは易し行うは難しです。

 

有無相生

 

 

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