老子小話 VOL 1157 (2023.01.14配信)

過ちを改るに、自ら過ったとさへ思ひ付かば、夫れにて善し、其事をば棄て顧みず、直に一歩踏出す可し。

過ちを悔しく思ひ、取繕はんと心配するは、譬へば茶碗を割り、其欠けを集め、合せ見るも同にて、詮もなきこと也。

(西郷南洲遺訓、第二十七条)

 

新年明けてはや半月が過ぎました。

新年の挨拶も済んで、ひと段落されているのではないでしょうか。

今回の言葉は西郷隆盛の遺訓をお届けします。

西郷隆盛は無私を貫き、慈愛にあふれたリーダーシップのもとに日本の近代化(明治維新)に大きく貢献した人物です。

彼の言葉は、現代のリーダーにとっても欠かせない要諦を突いています。

人生に過ちはつきものですが、自分の過ちに気づいたら、気づいたことを善しとし、それをきっぱり捨て、直ちに一歩を踏み出す。

過ちを悔しく思い、あれこれ取り繕うとするのは、茶碗を割ったあとに欠けらを集めて何とか修復しようとするのと同じだと西郷さんはいう。

割ってしまったものは元には戻らない。

割ってしまったことを過ちと認めず、割ったものを何とか元に戻そうしても無駄である。

自分の過ちを認め、相手に謝罪することが始まりで、相手の信頼を回復するために最善を尽くさなければならない。

ロシアのウクライナ侵攻はプーチンの過ちであったのは明らかですが、その過ちを認めずに占領地域を不当な選挙でロシア領土化するやり方は、まさに割った茶碗の欠けらを集めるやり方です。

人間も国家も過ちを犯すのは避けられません。過ちを犯したあとにどのような態度を取るかで、その人間や国家に対する評価が決まってきます。

過ちを素直に認め、過ちで生じた喪失した信頼をどのように回復していくかを考えなくてはいけない。

特に国家は、国際関係の中で信頼が築かれます。

一国に対する信頼喪失は、他国に対する信頼喪失に発展する虞もあります。

従って、速やかに信頼回復に努めないと、国際社会における立場は悪化の一途をたどります。

専門家の見立てではウクライナ侵攻は長期化するようですが、そうなると国際社会で信頼喪失したロシアの衰退は、歯止めが効かない様相です。

一方、日韓の徴用工問題は、日本が過去の過ちを素直に認め、国家間で賠償請求権の問題は解決した。

国家は国民の利益を代表するので、個人の請求権も賠償金支払いで消滅するのは当然です。

しかし韓国最高裁が、個人の請求権は消滅していないという判決を出し、おかしなことが生じました。

つまり日本が割った茶碗の欠けらを韓国が集めだしたというわけです。

これにどう応じるかという問題ですが、法的な権利関係をまず明らかにし、それ以外の観点で日韓両国の信頼を深めていく道をとるしかないようです。

国家のリーダーにとって、国内問題でも国家間問題でも、過ちに気づいたときは速やかに認め、直ちに自身に対する信頼回復の道を進むことが、西郷さんの遺言のようです。

もちろんこのことは、個人の過ちにも当てはまるのはいうまでもありません。

 

有無相生

 

 

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