老子小話 VOL 1156 (2023.01.07配信)

うづみ火やつゐには煮る鍋の物

(蕪村)

 

新年あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

今年初回の言葉は、蕪村からいただきました。

うづみ火とは、いろりや火鉢などの灰に埋めた炭火のことです。

今は、炭火といえば焼き鳥とか焼肉ですが、昔は物を焼いたり煮たりするとき使いました。

この句では鍋物を温めるためにいろりにかけている。

いろりの火はうづみ火なので、火力は弱くいつ温まるかわからない。

でも知らないうちに、ぐつぐつと煮えてきた。

ただそれだけのことですが、この句には味わいがあります。

灰に隠れた炭火の熱は煮るには覚束ないかもしれないが、長い時間かければちゃんと役に立ってくれる。

気長に仕上がるのを待つこころがにじみ出ています。

いろりはうづみ火なので、部屋の空気は寒々としている。

しかし、出来上がった鍋の物を口にすれば、体の中から温まってくる。

鍋をいろりにかけてから、鍋の物が煮えるまで、何か仕事をして待っている時間。

そして鍋の物を食べて、体を温める時間。

そういう時間の経過とともに、うづみ火の熱が鍋の物に移動し、その熱が蕪村の体に移動する様子が眼に浮かんできます。

鍋の物も、前日に作ったものを煮返したものだろうと想像できます。

うづみ火の火力で温めるのですから、新たに作るには足りません。

この句を見て、うづみ火というのは人の真心のように感じました。

表には見えず直接的ではないけれど、長い時間をかけてじわっと自分の心に伝わり、ホッとさせてくれるありがたいもの。

それが真心のように思えます。

年初めに、蕪村の心の優しさに触れたような気持ちです。

 

有無相生

 

 

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