老子小話 VOL 1153 (2022.12.17配信)

行年や氷にのこすもとの水

(蕪村)

 

今年も残すところ、あとわずかになりました。

季節柄を詠んだ蕪村の句をお届けします。

此の句は、「方丈記」の冒頭の「行く川のながれは絶えずして、しかももとの水にあらず」を念頭に置いています。

川の水は絶えず流れているので、もとの水は残らないというものです。

蕪村は、川を一年に置き換えていますが、一年の記憶は氷となって頭にとどまると洒落ています。

なかなか素敵な句だと思います。

氷になればもとの水は残ると考えたところは、科学者の眼をもっていたのかもしれません。

あるいは、実際に川に氷が張っているのを観察して、もとの水が残っていると気づいたのかもしれません。

いずれにしても自然を観察する鋭い眼で、自然を詠んだ句を多く残しています。

一年の記憶も大部分が流れて消えていきますが、その一部は氷となって心にとどまる。

自分にとっての2022年の記憶は、かなり強烈でした。

2月にはロシアがウクライナに侵攻開始し、残虐な戦争犯罪を繰り返し、今なお電力インフラの破壊を行ない、ウクライナ国民を苦しめています。

国連はこの侵略に対し無力化し、非難声明をあげても侵略を止めることはできません。

プーチンの独裁をロシア国民さえ止めることはできず、戦場に駆り出された兵士は大義なき戦いで命を落としている。

この悲惨は氷となって心を固まらせる結果となりました。

7月には安倍元首相が暗殺され、暗殺の原因となった旧統一教会と自民党の癒着が明らかになり、その癒着が献金による信者の家庭崩壊を野放しにしてきた事実が浮き彫りにされました。

自浄努力に欠ける政治家の実態がこれほど明らかにされた事件はありません。

一方経済では、150円台まで円安が進み物価が高騰を始め、130円台に落ち着いても物価高は勢いが止まらず、来年の景気後退も見通されています。

こう見てくると暗い記憶ばかりですが、明るい出来事としては、将棋の藤井聡太さんの五冠獲得、サッカーW杯一次リーグでの、ドイツ・スペイン撃破があげられます。

苦しいときの記憶が氷として心に刻み、それをバネにして何かを達成したとき、その苦い記憶が薬になったと言えます。

日本人は水に流すのが得意な民族だと思う事があります。

尊皇攘夷から開国主義・富国強兵へ、勤皇軍国主義から経済重視の民主主義への身代わりの速さ。

よく言えば、変化への対応が速いのですが、悪く言えば、アイデンティティがない。

自分が何者なのかを考えれば、歴史に学び、アイデンティティが芽生えます。

漢字が日本語に残っていることは、中国の文化に学び、かなを発明して、日本独自の文化を形成した歴史を現しています。

原爆を二度も落とされたという苦い記憶を忘れなければ、いまだに核シェルターなしで生活はできないはずです。

氷の記憶が今年は何になるのか、皆様も考えてみてください。

蕪村の句から、もとの水の大切さを味わってみました。

 

有無相生

 

 

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