老子小話 VOL 1146 (2022.10.29配信)

障子の穴をさがして

煙草の煙りが出て行った

(尾崎放哉)

 

今回は「尾崎放哉句集」(岩波文庫)から気に入った一句を選びました。

放哉さんは、大正時代に生きた孤高の、自由律俳句の俳人です。

お届けする句にも、一人暮らしの寂しさが感じられます。

煙草を吸っていた人なら、このシーンは経験するところでしょう。

煙草の煙はしばらくあたりを漂いますが、そのうち消えてしまいます。

放哉さんの眼は、煙の跡を追っていきます。

すると煙は、障子の穴に吸い込まれていくように流れていく。

まるで煙が逃げ場所の探すように漂い、穴から逃げていく。

煙草の煙にまで孤独な自分は見放され、煙は離れていく。

この句から感じられるのは、煙を運ぶ空気の流れと、その煙と共に流れていく放哉さんの魂です。

この空気の流れを生んでいるのは、障子の穴と障子のそとの空気です。

そとの空気の流れが、障子の穴を通して、煙を運ぶ空気の流れを作り出します。

煙の動きを見つめているのは、放哉さんの身体。

煙と共に、障子のそとに流れていくのは、放哉さんの魂。

魂が身体を離脱して、煙のように流れていく現象を詠んでいる句に思えます。

孤独の時間の中で見出した、一層孤独を感じる煙の動き。

その動きを生み出す、貧しい境遇と自然の変化。

流れていくのがあらゆるものの宿命だとこの句は教えてくれます。

放哉さんに感謝!

 

有無相生

 

 

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