◆老子小話 VOL
1146 (2022.10.29配信)
障子の穴をさがして
煙草の煙りが出て行った
(尾崎放哉)
今回は「尾崎放哉句集」(岩波文庫)から気に入った一句を選びました。
放哉さんは、大正時代に生きた孤高の、自由律俳句の俳人です。
お届けする句にも、一人暮らしの寂しさが感じられます。
煙草を吸っていた人なら、このシーンは経験するところでしょう。
煙草の煙はしばらくあたりを漂いますが、そのうち消えてしまいます。
放哉さんの眼は、煙の跡を追っていきます。
すると煙は、障子の穴に吸い込まれていくように流れていく。
まるで煙が逃げ場所の探すように漂い、穴から逃げていく。
煙草の煙にまで孤独な自分は見放され、煙は離れていく。
この句から感じられるのは、煙を運ぶ空気の流れと、その煙と共に流れていく放哉さんの魂です。
この空気の流れを生んでいるのは、障子の穴と障子のそとの空気です。
そとの空気の流れが、障子の穴を通して、煙を運ぶ空気の流れを作り出します。
煙の動きを見つめているのは、放哉さんの身体。
煙と共に、障子のそとに流れていくのは、放哉さんの魂。
魂が身体を離脱して、煙のように流れていく現象を詠んでいる句に思えます。
孤独の時間の中で見出した、一層孤独を感じる煙の動き。
その動きを生み出す、貧しい境遇と自然の変化。
流れていくのがあらゆるものの宿命だとこの句は教えてくれます。
放哉さんに感謝!
有無相生