◆老子小話 VOL
1139 (2022.09.10配信)
よそなれど同じ心ぞ通ふべきたれもおもひの一つならねば
(小野宮右大臣、新古今和歌集第八)
今回は、新古今和歌集の哀傷歌より和歌をお届けします。
この歌には、「すみ侍りける女なくなりにけるころ藤原為頼朝臣妻身まかりにけるにつかはしける」と前書きがあります。
一緒に住んでいた女性が亡くなった頃に、藤原為頼様の奥様も亡くなったので歌を贈ったと書いている。
「あなたと私は離れて住んでいるけど、同じ心が通っているに違いありません。こんな悲しい思いをするのは私たち二人しかいません。」
小野宮右大臣は藤原実資(さねすけ)のことで、藤原道長が権勢を振るった時代にあって、個人の利得や名声のために真実を覆さないという良識人だったようです。一方、藤原為頼は紫式部の伯父さんにあたる人だそうです。
お互いに妻を亡くした身の上で、互いの悲しみは場所が離れていても、相通じていることを伝えています。
子供に先立たれるのも辛いですが、一緒に寄り添って未来を築こうとするパートナーとしての妻に先立たれるのも辛いことです。
私も、同じ境遇に会われた方を何人も知っています。
特に子供が小さい場合は、悲しんでばかりはいられません。
他人の悲しみに寄り添うのは、言葉ではなかなか難しいことです。
その人の境遇にわが身を置いて悲しみを共感しようとしますが、それを言葉にしようとすると、詰まってしまいます。
小野宮右大臣も実際に同じ境遇に置かれたので、妻を亡くす悲しみは一つになれると詠います。
アルコール依存症やがんの再発に苦しむ方も、最終的にその苦しみを共感できるのは実際に同じ境遇に置かれた人間だということに気づいています。
がんの名医も、実際に自分ががんになって患者の気持ちがわかったと告白しています。
戦争で最愛のひとを亡くす人の悲しみの心は国境を越えていきます。
戦争を唱える指導者にとっても、最愛のひとを失う悲しみと苦しみを味わって、戦争を終結する決断がなされるのでしょうか?
小野宮右大臣の歌も、妻を亡くす悲しみから共通体験にもとづく平和的決断にまで展開する普遍的な歌に思えてきました。
有無相生