◆老子小話 VOL
1130 (2022.07.09配信)
その主とすみかと、無常を争ふさま、いはば朝顏の露に異ならず。
或は露おちて花残れり。残るといへども朝日に枯れぬ。
或は花しぼみて露なほ消えず。消えずといへども、夕を待つ事なし。
(鴨長明、「方丈記」)
昨日7月8日、安倍元首相が選挙応援演説中、凶弾に倒れ亡くなりました。
こころより哀悼の意を捧げます。
安倍一強といわれ、歴代最長政権を築いた政治家ですが、理不尽な殺意によりあっけなく命を落とされたことに対し、ある無常感が心に浮かびました。マスコミでは、民主主義への挑戦、許されざる蛮行という通り一遍の言葉が漂います。
長野遊説からの直前の変更、身辺警護の抜け穴、選挙カーではなく道端での演説、容疑者の誤解と自衛隊での射撃経験など、すべての偶然(因)が重なり合い因縁の結果、凶行が成功しました。
現代においても蛮行はウクライナ戦争においても行なわれており、日本だけが安全だとするなら、平和ボケというほかありません。
安倍元首相自らが国の安全保障に注力されていたのに、ご自身の身辺警護(安全保障)の抜け落ちで亡くなられたことが残念でしかたがありません。
今回の言葉は、「方丈記」から無常感を味わいます。
「家の住人とその家の移り変わりは、朝顔と露と異なる所はない。
朝顔の花は露の家であり、露は朝顔の住人である。
露が落ちて花が残ったとしても、朝日が高く昇るころには枯れる運命にある。
花がしぼんで露が残ったとしても、夕日のころまでに残ることはない。」
この世のあらゆるものは不変なものはなく、因縁に従って常に移り変わっていく。
歴代最長政権を続けられたのも、政治家として手腕だけでなく、安定志向の日本人の気質やその時々の経済事情などあらゆる偶然が重なり合った結果でした。そういった偶然がプラスに働けばよい結果が得られ、マイナスに働けば反対の結果が現われるまでのこと。
中国の故事成語では、「人間万事塞翁が馬」といいます。人間(じんかん)とは、世の中のすべてのことで、神様がサイコロを振って決めるように偶然性いかんにより、禍福がめくるめく変遷するので、何が福で何が禍になるかわからないということです。
アベノミクスで異次元の金融緩和しても、結局企業はイノベーションを創出できず、日本は低迷を持続しました。
長期政権というのは低迷のリスクを負うことが明らかになったわけです。
「方丈記」の言葉は、いわば自然の掟です。
政治も社会も、常に更新していかないと、低迷のループに陥ることになります。
安倍元首相が今回提示された無常感をポジティブに捉えて、明日の投票に臨みませんか。
有無相生