◆老子小話 VOL
1124 (2022.05.28配信)
自然は絶えず同じものを繰り返す。
年、日、時間。
同じように、諸空間は、数もそうだが、
端と端がつながりあって続いている。
(中略)
何も無限なもの永遠なものがあるのではない。
かずかずの有限なものがあって、
それらが無限に増えていくのである。
(パスカル、「パンセ」)
今回の言葉は、パスカルの「パンセ」からです。
パスカルといえば、フランスの哲学者であり物理学者であり数学者であるマルチタレントで、
「人間は考える葦である」という、名言を残しています。
気象予報に出てくるヘクト・パスカルのパスカルは、彼の名前が圧力の単位になったもの。
パスカルの自然観は、タオの自然観に似ています。
一年は元旦から始まり、元旦に戻るまでの期間であり、そのサイクルが無限に繰り返される。
植物の一生は、種から始まり芽を出し花を咲かせ、種を作って枯れるまでで、そのサイクルが無限に繰り返される。
有限なサイクルが無限に増えていく、自然の有り様を語ります。
タオも、無から有、有から無への転換の無限の繰り返しとして、自然を捉えます。
無という原点から出発して、無に帰っていく有限の原点回帰のサイクルを無限に繰り返すという、自然観です。
私が生まれる前に私はおらず、私が死んだ後に私は居ません。
パスカルのいう有限サイクルをつなげる端を、老子は原点と考えました。
人類が生まれた頃は、自然災害や人間同士の争いのため、寿命は短かったでしょう。
それが科学技術の進歩で自然災害の影響を減らし、宗教や平和思想の働きで争いも減り、寿命は増えてきました。
それは有限サイクルの拡張を意味しますが、死という端(無)を避けることはできません。
個々の有限サイクルの主体となる個人は、肉体と精神を頂いて、一回限りの多種多様な有限サイクルを組み立て、最後は死に至る。
人類の優れた点は、その有限サイクルで得た知恵を次世代に伝えることができることだと思います。
その知恵を生かして、世界全体に散らばる人類の平和と共存を維持していく可能性が生まれてくる。
とは言っても、いまだに戦争は絶えず、領土拡大のために隣国の住民に武力行使する国さえあります。
科学技術が産んだ最新兵器で戦う結果、被害も甚大になってくる。
知恵の活かしどころを誤ると、有限サイクルが途中で途絶える、つまり人類の破滅も不可能ではなくなる。
人間の知恵を超えた所に、自然の掟、つまり無限性の原点が存在すると、パスカルの言葉は語っているようです。
有無相生