老子小話 VOL 1116 (2022.04.02配信)

信念というのは嘘よりももっと危険な真理の敵である。

(ニーチェ、「人間的な、あまりに人間的な」)

 

今回の言葉は、哲学者ニーチェよりいただきました。

「人間的な、あまりに人間的な」の「第9章 ただひとりいる人間」にある言葉です。

信念が強すぎると、真理が見えなくなる。

嘘は、自分が嘘をついていると自覚できる。

でも信念は思い込みで、それが真理に反していようと、そのことを自覚できなくなる。

そういう意味で嘘よりも危険であるという。

信念は、頭の中で作り出したストーリーである。

為政者は、強い信念に基づき戦争を始める。

その信念とは、戦争に勝てば自国の平和と安定が保たれるというストーリーである。

戦争を始める理由は、もっともらしく見えれば、嘘でもよい。

湾岸戦争で言えば、大量破壊兵器という嘘が使われた。

真理は目の前の現実である。

ウクライナ侵攻を始めた指導者プーチンの信念は、ウクライナのロシア化によりロシアの防衛ラインは拡充し、ロシアの平和と安定が強化されるという思い込みである。東スラブ民族とロシア語とギリシャ正教という同一性のもとにロシア化を受け入れてもらえるという思い込みである。

一方、ウクライナの真理は、ロシアによる抑圧の歴史の記憶と、独立国として自由主義を選択する主権である。

プーチンの信念は、その真理を無視するが故に、ウクライナにとってロシアは危険な敵になってしまった。

世界の真理は、国同士が互いの独自性(主権)を認めつつ、協力関係のもとに平和を維持することだと考えられます。

その真理をも敵に回す結果となりました。

老子第29章にも、信念は有為であり、これをもって世界を我が物にしようとしても、無駄な努力であると書いている。

強引に世界を動かそうとすればするほど、世界は遠のいていく。

損得勘定を抜きにして、無為で付き合うことで、信頼はゆっくりと生まれてくる。

信念の怖さをあらためて考えさせる今回の言葉でした。

 

有無相生

 

 

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