老子小話 VOL 1112 (2022.03.05配信)

將欲取天下而爲之、吾見其不得已。

天下神器、不可爲也、不可執也。

爲者敗之、執者失之。

(老子、第二十九章)

 

将に天下を取らんと欲してこれを為すは、吾れその得ざるを見るのみ。

天下は神器、為すべからず、執るべからず。

為す者はこれを敗り、執る者はこれを失う。

 

ロシアがウクライナ侵攻は泥沼化し、原発への攻撃や民間人への殺りくに及んでいます。

ロシアがこのような無謀な侵略を始めた理由がわかってきました。

ウクライナに要求する非武装化と中立化は、ウクライナの主権を認めないということ、つまりはロシアに同化せよということに他なりません。

それを圧倒的な軍事力をもって強制的に行なおうとしています。

今回も老子の言葉で、このことを考えてみたいと思います。

「世界を征服しようとして工作しようとするが、それが成功したのを見た事がない。

世界は不可思議な器であり、それに仕掛けたり、つかまえることはできない。

仕掛けると世界は壊れ、つかまえようとすると世界を失うことになる。」

前回の言葉を用いれば、天下が神器だからこそ小魚を煮るように慎重に扱わねばならないということになります。

ウクライナ問題でいうなら、世界はウクライナの主権にあたります。

ロシアはこの主権をわが手中にいれるべく、民間人を巻き込んだ侵攻を継続しています。

老子は、この主権は不可思議な器という。

主権は、国が独自に意思決定と秩序維持を行なうために有する最高の権力です。

それはいかなる他国も侵すことはできません。

力づくでそれを奪えば国は崩壊し、国民は従属意識を持ち、永遠に遺恨を残すことになります。

ウクライナの歴史が、ロシアへの従属の歴史だったわけです。

老子は、主権は過去の歴史が育んだもので、それを他国が強制的に変えることはできないという。

ウクライナの信頼を得ようとするなら、過去の歴史を尊重し、話し合いによる解決しか道はない。

プーチン大統領の強迫観念のようなNATOに対する危機意識は、ロシアが過去に受けた侵略の歴史に根ざしているとも言われています。

核兵器を抱える独裁者の強迫観念ほど危険なことはありません。

危機意識を和らげる手立てを真剣に考える時期なのかもしれません。

老子が唱える無為は、何かを狙った作為の無駄をいい、その国のあるがままの姿を尊重した付き合い方をすることに他ならないように思います。

 

有無相生

 

 

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