老子小話 VOL 1097 (2021.11.20配信)

ひとり来て一人を訪ふや秋のくれ

(蕪村)

 

晩秋となり紅葉の見ごろも後半となりました。

今回は蕪村の晩秋の句をお届けします。

秋のくれになると、狐や狸が夜の戸をたたいていたずらをするという言い伝えがあります。

ひとり暮らしの寂しさが、そら耳を狐や狸のせいにするのでしょうか。

一人暮らしのひとの家を訪問するひともまたひとり。

ひとりで秋の夜を過ごすにはあまりにも寂しい。

一緒に飲もうと酒を抱えて、やってきたひと。

その訪問を受けた家のあるじは、最初は狸か狐のいたずらと思って、おそるおそる戸を開ける。

そしてそこに寂しさに耐えきれなかったひとりを見る。

思わずほっとため息をつき、暖かく部屋に迎え入れる。

そんな光景を遠方からながめている蕪村の姿が想像できます。

人間は所詮孤独な存在です。

ひとりで生まれ、ひとりで死んでいきます。

その孤独を一番感じるのが晩秋のように思います。

孤独を癒すものが、何気ないこころの触れ合いです。

それも一対一のこころの触れ合いです。

相手の孤独を自分の孤独のうえに重ねて語らうことで、共感する機会を得る。

秋のくれは、上空には月、周囲は静寂と、こころの交感のためのお膳立てがすべてできている。

蕪村の句には、そんなほっこりする情景があふれています。

 

有無相生

 

 

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