老子小話 VOL 1085 (2021.08.28配信)

完成は付加すべき何ものもなくなったときではなく、

除去すべき何ものもなくなったときに達せられる。

 (サン・テグジュペリ、「人間の土地」)

 

書架に眠っていた文庫本を広げて言葉を見つけました。

「星の王子さま」で有名なサン・テグジュペリですが、「人間の土地」も名作です。

巻末(新潮文庫本)に載っている、宮崎駿氏の「空のいけにえ」と題する文章も印象的です。

この言葉は、機械が完成に近づくほど目立たなくなってくるという文脈の中で語られます。

サン・テグジュペリが使っていた機械は飛行機でした。

発動機などの飛行機のパーツが正常に動作していることに気を使いながら操縦していたのは昔の話。

今は操縦していることさえ忘れる位、機械は完成度を増してきたという。

わたしたちの身の周りを見ても、スマホの中には超高性能のコンピュータが入っていていて、音声認識や翻訳までやってくれる。

自動車だって、自動運転ができるようになり、運転していることを忘れそうな段階に近づきつつある。

一方、機械にいろんな機能が付加されすぎて、それを使いこなせないという不具合も生じています。

ワードやエクセルというソフトも余りにも設定項目が多すぎて、人に聞かないと使いこなせない状況になっています。

今回の言葉は、機械の完成とは何かを考えさせるきっかけを与えてくれます。

機械と向き合うのは人間ですから、人間がストレスを感じずに操作できるのが最高の完成度といってよいでしょう。

自動運転で安全だと思っていたら衝突したら、前にも増してストレスを感じます。

そういう観点から見ると、今のソフトのレベルは未完成です。

機械を操作する人間側からいうなら、最小限の操作で目的を達する事ができれば、完成に近づくといえます。

それも機械の側から誘導がないとストレスが増します。

よくPC画面上で、処理プロセス中で現在どのステップにいるのか表示されることがあります。

これなんかは、ストレスを減らす効果をあげていると思います。

今回の言葉は機械だけでなく、人間関係を仲立ちするコミュニケーションでも成り立つようです。

いろんな前置きも大切ですが、最低限言わなければいけないことを確実に伝える。

その言葉が欠けるとコミュニケーションが成り立たなくなる、その言葉を伝えることです。

メッセージは最小限の言葉で伝える。

その好例は般若心経かもしれません。

 

有無相生

 

 

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