老子小話 VOL 1060 (2021.03.06配信)

月影のいたらぬ里はなけれども

ながむる人の心にぞすむ

 (法然、「続千載和歌集」)

 

まもなく3.11東日本大震災から10年が

経とうとしています。

あのときの記憶は決して心から離れません。

行方不明の方がまだ多数おられる状況を見ますと

津波災害の甚大さをあらためて思い知らされます。

今回は鎮魂の意を込め、法然の和歌をお届けします。

法然は浄土宗開祖のお坊さんで、親鸞の師匠です。

「この世を照らす月の光が届かない里は

ないけれども、その月が住むのはそれを

眺めているひとの心でしょう。」

月の光はすべてのひとに降り注いでいます。

月の光は仏の慈悲を表わしています。

その慈悲を感じられるのは、その光を受ける

側である我々の心の状態による。

明鏡止水なる、澄み切って落ち着いた心。

月の姿が鏡にそのまま映される状態です。

その状態に保たれて、月影は心で澄んで見える。

震災で命を落とされた方々の魂は月影のように

今のわれわれを照らしている。

その魂と交信するためには、われわれの心も

仏の心のように澄み切った状態にする必要がある。

老荘の道の教えも、山川草木至る所で発信される。

それを感受する側に心の準備が求められます。

最後に別れてから何年もして、あの時にあなたは

何を言おうとしていたのかと、振り返ることがある。

そのときが死者の魂との交信の機会です。

その機会を逸しないように、法然の歌をこころに

とどめておいてはいかがでしょうか。

 

有無相生

 

 

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