◆老子小話 VOL
1058 (2021.02.20配信)
口是禍之門
舌是斬身刀
閉口深蔵舌
安身處處牢
(馮道、「舌詩」)
口はこれ禍の門なり
舌はこれ身を斬る刀なり
口を閉ざして深く舌を蔵すれば
身を安んじて処処に牢なり
今回は中国の五代十国時代に生きた宰相馮道
(ふうどう)(882〜954)の詩をお届けします。
口は禍の元のもとになったような詩です。
名づけて「舌詩」。
失言を英語で言うと、slip of tongueといい、
舌がすべることです。
日本語だと口がすべるといいますが、すべるのは
口じゃなくて舌です。
頭に思い浮かべたことを言葉にするわけですが、
書いた言葉は読み返して消す事ができますが、
口から出た言葉は後で消すことはできません。
最近も女性蔑視発言でオリンピック委員会の
会長を辞めた方がいました。
あとでそんな積もりはなかったと言い訳しても、
その時は普段思っている事が頭に浮かんできて
口に出てしまった。
「舌詩」にも、「舌は自身を斬る刀」という。
その一言を言わなければ、職務を全うできたのに。
思ったことをそのまま口にせず、聞いた人がどう思う
かを考えた上で言葉に出すことが必要になる。
自分の経験上、言った後にしまったと思う事があります。
そう思ったら、その言葉の意味を和らげるフォローを
入れるに越した事はありません。
フォローできなければ、その場で素直に謝るべきです。
「舌詩」では、「口を閉じて舌という刀を深く隠していれば、
どこにいようと身の安全は堅固に保たれる」という。
口に出すことは刀を振るうという自覚が大事。
この自覚を忘れると、知らぬ間に相手を傷つけ自分を傷つける
結果になる。
この詩の作者は王様に使える大臣ですから、自分のひとことが
王様の逆鱗に触れ命を落とすことも在り得たわけです。
刀という意識は高かったと思われます。
一方、自分がオリンピック委員会の王様のような積もりでいたら、
刀という意識は低く、日本国民や世界から厳しい非難を浴びる
心配など思いも付かなかったことでしょう。
舌是斬身刀は、誰もがこころしておかねばならない教えです。
有無相生