老子小話 VOL 1043 (2020.11.07配信)

己が身の闇より吼えて夜半の秋

(与謝蕪村)

 

おのがみの やみよりほえて よわのあき

 

11月3日に米大統領選挙投票は終わりましたが、

コロナの影響で郵便投票の集計作業が終わらず、

決着がついていません。

郵便投票は不正だと声明が出され、混乱を生じる

事態に至っています。

今回お届けする蕪村の句は、この混乱を詠って

いるようにも見えます。

この句は、円山応挙が描いた黒犬の画の画賛を

頼まれ作った句です。

蕪村の生きた時代は、秋の夜半は真っ暗闇です。

闇の中に気配を感じ、闇に向かってほえる犬。

見えないものに恐怖を感じるのは犬も人間も同じ。

しかし蕪村は、外の闇より自分の内なる闇に

焦点を当てました。

闇に向かってほえる自分は、実は自分の心の闇が

怖いのではないかと。

パリ協定離脱など国内外で分断を引き起こした

トランプさんですが、大統領選では根拠のない

不正を吹聴し支持者をあおる行動をとっています。

投票の結果は最後まで静かに待つのが民主主義の

根本ですが、それさえ無視し分断という闇を生む。

これは、闇を口から吐き出しながらほえている

黒い犬のイメージを想像させます。

しかし蕪村は、闇は自分の心の内にあると分析する。

「己が身の闇より吼えて」という表現がそれです。

心の闇がそのまま口に現われて、それが言葉になる。

ビジネスマンとして思い通りに成功してきたことは

自分のやり方が常に正しいという自信を生み、それが

民主主義でも通用するという思い込みになった。

最大のつまづきは、大切な時期に自身がコロナに

感染し、思うように選挙活動できなかったこと。

次のつまづきは、選挙に勝てるか怪しくなったこと。

これもコロナが原因した郵便投票のためかもしれない。

思い通りにならなかったのは全部コロナのせい?

強い偉大なアメリカというのは、自分勝手にすること

ではなく、国内外からリスペクトされるアメリカにする

ことです。そのためには自分がリスペクトされること。

トランプさんの心の闇は彼の自伝待ちですが、その前に

自身の心の闇を内省することが先決で、それが彼の闇への

恐怖をやわらげることかもしれません。

蕪村の句からそんなことを感じました。

 

有無相生

 

 

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