老子小話 VOL 1040 (2020.10.17配信)

鏡は己惚の醸造器である如く、

同時に自慢の消毒器である。

(夏目漱石、「我輩は猫である」)

 

前々から漱石の「猫」を読みたいと思っていました。

漱石のデビュー作で最初は短編で終わるところが

好評で連載に変った小説です。

猫の目を通して、しがない英語教師を取り巻く人間模様を

描いていますが、読んでみるとなかなか面白い。

漢文調で多少堅苦しいですが、内容は極めて現代的です。

禅の教えがなんとなく理解できる年齢になった今読むと、

面白さは増してくると思われます。

今回の言葉は、猫の飼い主である英語教師が自分のあばた顔

を鏡でのぞくシーンに出てきます。

白雪姫の女王様のように、鏡をのぞいて自分の美しさに

惚れ惚れする人もいます。

己惚は「うぬぼれ」と読みます。

鏡は普段見ることのできない自分の顔を映し出すので、

うぬぼれの強い人は鏡を見てますますうぬぼれを増す。

一方、失敗続きで自分に愛想の尽きかけた人は鏡を見て、

自分の馬鹿面を目の当たりにすることができる。

鏡を見るほど薬になることはないと漱石はいう。

こんな顔でよくまあ人として今まで暮らせたものだと

気づく事が、人生で一番大事だという。

これが、鏡が「自慢の消毒器」たるゆえんです。

前段で、凡て人間の研究は自己を研究することだという。

顔は心を映し出すともいう。

鏡に映った自分の顔は自分の心を映し出す。

人生は人間の研究だとするなら、折に触れて鏡を見て、

己の愚かな心をチェックするのもよいと思われます。

 

有無相生

 

 

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