老子小話 VOL 1039 (2020.10.10配信)

重爲輕根、靜爲躁君。

(老子、第二十六章)

 

重きは軽きの根たり、

静かなるは躁(さわ)がしきの君たり。

 

今回は久方ぶりに老子を選びました。

「重いものは軽いものの根本になる。

静かに落ち着いたものは、さわがしく動き回る

ものの君主となる」

今年のノーベル物理学賞では、ペンローズ先生と

2名がブラックホール研究で受賞されました。

ブラックホールは、太陽の重さの数百万倍の超重い

天体です。

そこでは重力が強過ぎて、光さえも逃げだせません。

そのため、「黒い穴」と呼ばれています。

それが銀河の中心に存在することを、他の2名が観測で

見つけました。

ブラックホールは銀河をつなぎとめ、宇宙に固定する

役割を持っている。

老子が現代に生きていたら、重く静かなるものは

ブラックホールで、軽く動き回るものは銀河の星だ

と言ったかもしれません。

宇宙の根源を見透かしたような言葉です。

章の最後は、「軽ければ則ち本を失い、躁がしければ

則ち君を失う」で終わり、為政者は軽々しくすると土台

を失い、動き回っていると君子の立場を失うという。

トランプ大統領がコロナに感染し、コロナの軽視が

自分に跳ね返ってきました。

大統領選間近という一番大事な時期の感染で、天網恢恢

そのものです。

これも老子七十三章にあります。

一方日本では、菅首相の学術会議会員の任命拒否は、

「悪しき前例の打破」が理由と言いますが、このことこそ、

「悪しき前例」を生み出しています。

老子がいう重きものとは、自分が表に立たずとも、国民

がなるほどと思うような決断をすることです。

権力を笠に着て、強引に突破することではありません。

それこそ事を大きくして、自らが動き回る結果になる。

更に、105人の推薦リストは見ていないと言い出す始末。

まさに臭いものに蓋する、官僚が尻拭いするような言葉

まで飛び出しました。

学術会議のあり方を問題視するなら、権力を頼らず、

もっと地道な相互理解のとり方があったはずです。

老子がいう静かなるものとは、冷静にしかも順序だてた

アプローチをとるものをいいます。

焦って「悪しき前例の打破」を行なえば、自らが軽はずみ

でさわがしきものに成り下がる可能性大です。

菅さんも、自民党の細田先生から老子を学んだほうが

よいのでは。

 

有無相生

 

 

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