◆老子小話 VOL
1010 (2020.03.21配信)
花に来て花にいねぶるいとまかな
(蕪村)
今回は蕪村の句をお届けします。
桜の花は満開に近づきつつありますが、
新型コロナの影響で花見も遠慮がち。
そこで自宅でVRの花見映像を見て、
花見に行った気分を味わえるそうです。
ここでは蕪村の句によりバーチャルに
花見をやりましょう。
「花に来て」はもちろん花見に来ること。
「花にいねぶる」は花の下で居眠りすること。
せっかく花見に来たのに花の下で寝てしまう
ひとときだったなあと詠んでいる。
花見で一杯やってほろ酔い気分になり、つい
寝入ってしまったのでしょうか?
寝入っている間に散った花が顔に降りかかる。
寝ている姿を眺めている人は、どんな夢を見て
いるのかなと思う。
花見に来て寝ている人とそれを眺める人。
そして桜が散るさまは、諸行無常の時間を
感じさせる。
その時の流れを「いとま」で表現しています。
「いとま」は、休みとか別れを意味する。
更に言えば、この世との別れ、つまり死を
意味する。
花に埋もれて寝ることは、死の疑似体験と
言えるわけです。
西行も「願はくは花の下にて春死なむ」と
花の下での「いとま」を希望しています。
花を眺めながら涅槃にいる気分になって
寝入るのは、至福の「いとま」かもしれない。
蕪村が、どれだけ西行の歌を意識したかは
わかりませんが、眠る人とそれを眺める人
の二人の視点を映像化し、諸行無常としての
花が「いとま」の意味を深めている句のように
思えます。
有無相生