エキスパートへの道2013    監修 綾小路髭麻呂


地道に更新し続けてきたエキスパートへの道ですが、今年は左写真の「3コマ目」のポジションにスポットを当てて解説します。

時計文字盤の10時の位置で作る3コマ目のポジションを「軸のあるハイポジション」と呼ぶ事にします。

3コマ目のハイポジションが出来ればターンはとてもシンプルになります。3コマ目のハイポジションから4コマ目のポジションへと両スキーの面に身体を乗せていくだけになり、スキーの面に身体の重さを乗せていく動きにいくつかのバリエーションがあるだけです。
ハイポジションから次のハイポジションまでを一つのターンと考え、どのように動いてどのように力を掛けて次のハイポジションを作るか、その作り方が見せ場になる考えです。

2時・10時で作るこのハイポジションでは身体の軸の傾きがありますが、これまでのエキスパートへの道で述べてきたように谷回りで両スキーのリーディングエッジが噛む位置まで傾くのであって、決して「内倒」しているわけではなく、このポジションから即座に両スキーに縮んでいく事が出来ます。



3コマ目を抜き出した写真ですが、外足ブーツの真上に外腰があり、外腰の上に外ヒジがセットされた「軸のある」「ハイポジション」です。

両スキーの面に角付けがあり、この後の舵取りでこのスキーの面にウエイトを乗せていくことをイメージして下さい。

また、ターンは連続運動なので動き続けているときのポジションは意識しにくいのですが、最も高いポジションの時には運動が止まるので、2時・10時のハイポジションのときの自身のポジションをチェックする事で、その後のターンが良くなります。

ハイポジション=スターティングポジションと考えても良いと思います。

では、そのようなハイポジションを作るにはどうしたらよいかを解説します。

まずは左写真のように腕を高く構えます。このとき、青い線のように両肩とヒジを結ぶ線を意識し、この ヒジー肩ー肩ーヒジ の構えはいかなるときも崩しません。ストックを突くときは ヒジー肩ー肩ーヒジ の構えは崩さずに、ヒジから先を動かしてストックを突くようにします。また、この写真のように、ブーツの前後差、腰の前後差、両肘の前後差が一致することが大切です。この姿勢が基本となる山回り姿勢です。
この姿勢が取れているからこそこの先の谷回りで板と身体がクロスオーバーし、効率的に身体が谷に落ちていくのです。
このような構えを作るためには、「両肘で大きなボールを挟み」、「ストックは小指と薬指で握り」、「手のひらを雪面に向けて手のひらで雪面にへばりつくような意識」が有効です。ヒジを肩より高く上げてしまうのはNGです。

このような適度なターン後半の外向傾がその次のハイポジションに繋がります。以下このような構えの高い適度な外向傾のポジションを「基本ポジション」と呼びます。

このような高い位置に構えた腕のポジションを、「かかし」とか「ヤジロベエ」「アラレちゃん」などと揶揄する声も耳にしますが、このような高い構えには意味があります。

左写真のように切り換えのニュートラルの時は両肩を結ぶ線は斜面の傾きに平行であるべきですが、両肘を身体の前に高く構える事で、両肘を結ぶ線=両肩を結ぶ線になり、ニュートラルの時の肩の傾きを意識しやすくなるのと、下で解説するようにカービングスキーの強い回転力に上半身が回されてしまう現象に拮抗可能になります。
また、このとき山側のヒジを「高く」「前に」構える事で谷回りで外半身に軸が出来るのです。


この写真のように腕の構えが低いと、ヒジの位置が低くなり、ヒジの位置が低くなると腕が後ろに引けやすくなって股関節で曲がったり上半身が潰れやすくなります。また、低い構えからストックを前に突きに行くモーションが上体を動かしてしまい、写真で言うと左ストックを突きに行くと左半身が前に出て反動で右半身が後ろに引けてしまうのです。この動きは身体を落としていく事を妨げてしまいます(後述)。
また、このように低い構えだと腕の重さを板に伝える事も出来ません。肩胛骨とヒジを結ぶ線を高い構えで一体化して意識する事で、腕の重さも全て板に伝える事が出来るのです。
腕の構えが低い方が腕を上げるように教わると右写真のように谷回りで山腕を必要以上に持ち上げる事がありますが、バンザイのように山腕だけを持ち上げるのではなく ヒジー肩ー肩ーヒジ の構えは崩さないで下さい。

左図のようなコルク抜きの形に例えた場合、赤矢印のような強い回旋力に拮抗するには青矢印のような左右幅のある構えの上半身でないと拮抗出来ません。
特に急斜面やハイスピードでは板から強い回旋力を受けますが、低い構えだとその回旋力に身体が回されてしまい、そのように回されてしまうと重心がいつまでも山側に残ってしまい、切り換えで滑らかにエッジを外す動きには繋がりません。
昔は「ターンと反対側の腕を前に出せ」と言われましたが、高い構えはそのようなニュアンスを自動的に作ってくれます

腕の構えが低い場合、板の回旋力に身体が回されてしまい、写真のように板と正対しがちです。

左写真の人が谷回りで身体を落とそうとすると、上体を煽るか腰だけ次のターンインサイドに落とすなどする動きに繋がってしまい、今回求めるターン前半のハイポジションには繋がりません。

左写真で言えば、山腕=右腕のヒジはもっと「前」に「高く」構えておく必要があります。

今回求めるハイポジションですが、その前のターン後半の運動やポジションがこのようなハイポジションに繋がることを忘れてはいけません。
一つ上の低く構えて斜面に対して山肩が下がり、板に正対した(適度な外向傾の無い)ポジションでは左写真のハイポジションにはなり得ないのです。また、この写真のように本当の意味で外スキーに軸が出来るポジションというのは、実は内スキーがとても使いやすいポジションでもあるのです。しかし、この写真の外スキー(右スキー)は少し戻ればそれまでは内スキーだったわけで、前のターンでの内スキーへのポジショニングが適切でなければ左写真の右半身のポジショニングは出来ません。内主導・外従動の流行の滑りであっても、いついかなる時でも外スキーに身体を乗せる事が事が出来なければいけないのですが、外スキーへのポジショニングがあますぎる滑りが目立ってきたように感じます。

上の写真は「山足一本の横滑り」です。
左写真を見ると谷足が浮いて浮いているのが分かりますが、構えの高い基本ポジションを取り、山足の足首の緊張感を保ち、山腕や山腰の重さを山スキーのアウトエッジにしっかり乗せて押しずらします。
舵取りで白い矢印のように山半身の重さを板の面に押しつけるような力を掛け続ける事が次に身体が落ちていく動きに繋がるのです。

このとき、右写真のように谷を覗き込むような目線はNGです。谷を覗き込むと山肩が下がってしまい、身体を落としていく動きには繋がりません。左写真を見て白矢印のように力を働かせて横滑りをすれば、この写真で山スキーの動きを止めれば身体はそのまま谷(こちら側)に落ちてくる事が想像出来ます。実際のターンでは板が切れていようがずれていようが、板の面に対してこのような力を掛け続ける事がとても大切です。板の面に力を働かせる事をサボってしまうと乗せられただけの人形のような滑りになり、切り換えで身体も落ちていきません。

この写真は極端ですが、板に身体が回されたり板に乗っかるだけの人は左写真のようにターン後半山肩が下がり山腕が後ろに引けてしまい、その後の切り換えでは右写真のように身体を煽ってしまいます。

そうではなく、左写真のような腕を高く構えた基本姿勢で「斜面に肩のラインが平行な状況」を通過し、そこから少しターン内側に肩のラインが傾くことがターン前半のハイポジションに繋がるのです。ヤジロベエと揶揄されるこの高い構えですが、机上で考えるのではなく、実際に雪上の急斜面に立ち、その斜面で肩の傾きを斜面の傾きに合わせてみてください。斜面に肩が平行というのは想像以上に肩が谷に傾いてようやく斜面と平行になる事が分かります。では「腕の構えを低くして肩を斜面と平行にした場合」と、「腕を高く構えて平行にした時」を実際にやって比べてみてください。腕の構えが低い場合は肩の傾きと斜面の平行は感覚でしか合わせられませんが、腕の構えが高くヒジが前に出ていれば、ヒジとヒジを結ぶ線を斜面と平行にする事で斜面と平行かどうか確認可能です。
つまり、高い構えであれば肩ラインが斜面と平行であることが滑走中にもチェック可能なのです。
頭で考えて机上で論ずるのではなく、雪の斜面で実際にそのポジションを取れば違いが分かります。

また、腕の構えの高いハイポジションであれば、山側の腕を握り拳1個分上げ、谷側の腕を握り拳1個分下げるなどして肩の傾きを調整する事が容易に可能になるメリットもあるし、両肘の向きでターン後半の外向の程度が自在にコントロール可能になります。

ターン後半の基本ポジションが左写真です。
黄色の線のように肩とヒジの構えを意識し、今からこの人は青い矢印の方向に落ちていく(=クロスオーバーしていく)のですが、このときに青い矢印のエリアには身体を落としていくのに邪魔な物があってはいけません。

例えば真ん中写真のようにストックを突きに腕を前に出してしまうと、この出した腕が邪魔をして身体が落ちていきません。
また、右写真のように切り換えで板の前後差をスイッチ(谷スキーが前に出る)してしまうと前に出した谷スキーが邪魔をしてやはり身体が谷に落ちていかないのです。
つまり、突きに行ったストックや前に出した谷スキーが青い矢印エリアの中に侵入してしまうことは身体の落下を妨げてしまうのです。

左写真を見て下さい。
高い構えの基本ポジションを維持したままストックを突くので、右ストックはブーツの後ろ側に突いている事が分かります。
左写真では赤矢印の方向に今から落ちていくのですが、落ちていく方向に邪魔な物がないので素直に谷に身体を落としています。
このとき「腕の構えの高い基本ポジション」も崩れていません。
「ストックはブーツの後ろに突く」のはあくまでも結果的にそうなるのであって、構えが低く身体が板に回されている人が形だけブーツの後ろにストックを突く事はポジションを歪めてしまうのでやらないで下さい。
ただし、ピッチの細かいコブを滑ったりクイックターン小回りの時(=身体が常時フォールラインを向き左右幅の小さな弧の場合)のストックを突く位置は従来通りです。

連続運動の中で運動が途切れる一瞬がこのような最も高い姿勢のハイポジションであり、運動が途切れるときはそのときの自分のポジションを意識しやすいものです。
そこで、2時・10時のハイポジションの時、左写真のように「外足の母指球」?「外腰」?「外ヒジの位置」、「歪みのない高い腕の構え」をチェックポイントとして意識してみて下さい。
このチェックによって谷回りの外軸が完成し、その軸を潰すように両スキーの面に向かって力を掛ける運動が可能になります。また、このチェックポイントでターン前半の傾きが左右のターンで均等な傾きになります。

高い構えを利用した一つの意識の置き所として、赤いラインで示した ヒジ?ヒジ ラインを板の面の傾きに合わせて滑る感覚も(練習として)とても有効です。


腕の構えの高い基本ポジションから2時・10時のハイポジションになるとき、陥りがちな欠点をあげておきます。

左写真の1コマ目の山足足首をみると緩んでいる事が分かりますが、この時点で足首が緩むと板が身体から遠ざかってしまい、谷回りでトップ側のリーディングエッジを噛ませる事が出来ません。
その結果、2コマ目のようにハイポジションの時に外腰(右腰)が引けてポキッと折れた割り箸のようなポジションになってしまいます。そのポジションのまま荷重動作に入ると外股関節で潰れてしまい上体も被ってしまうし、身体の重さが板に伝わりません。

つまり、1コマ目で山足足首が緩まないように意識を置いてください。足裏感覚で言うと、ターン後半小指側踵にある山足の荷重を谷回りの時に足裏をクロスして母指球を踏む位置まで移動させる感覚も同時に持ってみて下さい。


同じ写真をもう一度出しますが、頭で想像するのではなく実際のゲレンデで山足一本の横滑りをやってみて下さい。このときのポジションと山足の使い方が出来ない内は2時10時のハイポジションは出来ません。
こういった文章を読むと「そんなの出来るよ」と思いがちですが、いかなる斜面であっても安定した山足一本の横滑りが出来るかどうか、しかもフラフラせずに出来るかどうか、是非次回滑るときにやってみて下さい。そして、その横滑りした山足一本で谷回りに入り1ターンして「最後までその一本足(写真だと右足)に乗ってみて」ください。
それが出来ないようであれば外スキーへのポジショニングがおろそかになっていた証拠です。内スキーは次のターンでは外スキーになり、その外スキーは次のターンでは内スキーになるので、内スキー外スキーどちらかに頼るのではなく、両方使える事が必須です。

また、「山足の横滑り」は山足エッジが強く噛んでいては出来ません。つまり、山スキーのエッジを外す事に他なりませんが、山スキーのエッジを外すためには「エッジが外せるポジション」が出来ている必要があります。足首が緩んで前方に突っ張った足のエッジは返せないのです。
右の写真のように身体がいつまでも山側に残った人のエッジはいつまでも立ってしまっていますが、エッジを外す=身体が落ちる ためには左のポジションが必要です。

今回は、2時・10時のハイポジションをどのようにして作るかにスポットを当てて述べてきましたが、ターン後半いつまでも身体が山側に残るのではなく、徐々にエッジを外して同時に身体が谷に落ちていく事が必要で、そのためにはどのような意識が必要かを書いてみました。
皆様のスキーのモチベーション向上に繋がれば幸いです。


追記

ターンは連続運動なので、それまでの運動や力の掛け方の結果が2時10時のハイポジションに繋がる事は述べてきました。
左写真の1コマ目では黄色線のように肩のラインの内側への傾きがあります。2コマ目になるとその肩の傾きが若干戻され、3コマ目になると肩の傾きが斜面と平行(ニュートラル)になっている事が分かります。「肩の傾きの一連の流れ」を目で追ってみて下さい
1→2コマ目のときに肩のラインが次第に起こされます。同時に青矢印のように外ヒジが雪面(板の面)を押すように下がって身体も縮んでいる事から足下のエッジ角は増して身体は弓なりなマキシマムになっている事が分かります。そして、この2コマ目のターンマキシマムから肩のラインが更に起こされると(2コマ目の)強いエッジの食い込みも切り換えに向けて外されて行きます
実際のターンで意識して欲しいのは、「1コマ目のハイポジション」から「板の面に向かって力を働かせていく」結果で肩のラインが起こされるのであって、形だけ肩のラインを起こしてしまうと棒立ちヤジロベエになり、次のハイポジションで外スキーへの荷重が出来ないのでNGです。
※左図でのポイントは、白丸で示した脇の下の懐を維持したまま1コマ目で出来た軸を潰すようにスキーの面に荷重して行きます。その結果、切り換えの局面で3コマ目の赤い矢印の方向に身体が落ちて行くのです。




ただし、肩のラインを左写真のようにあまり倒さずに、常に水平を保つ滑りもとても大切です。

体軸を大きく使い肩のラインを倒したり戻したりしてターン全体の流れや躍動感を表現すること、そして肩のラインを水平にキープして強いエッジングを表現する事、そのような事を自在に操る一つのポジションの示標が、2時10時のハイポジション(=スターティングポジション)であり、そのハイポジションの時の肩の「傾き」や「向き」や「高さ」を意識する事でその後のターンの質を決める事も可能になるのです。
そしてその「肩の傾きや向き、高さ」を自在に調整出来る構えが「構えの高い基本ポジション」であり、左右のヒジの位置を視覚で捉え意識する事で滑りの質は格段に向上します。


追記その2

ターン後半にエッジを外していく事、そして切り換えで身体を谷に落としていく事に有効な意識の置き所を更に紹介します。

左写真の1コマ目で内傾角のあるハイポジションが出来たら、写真で言うと「右脇腹にきつさを感じるように右肘を絞めて」いきます。それによって右半身が弓なりになり、2コマ目の矢印のように上半身は起こされる方向に力が掛かります。
結果2コマ目ではくの字姿勢になりますが、この「上半身が起こされる力」が「3コマ目で体が谷に落ちていく動き」に繋がります。
切り換えに向かって「体が谷に落ちていく動き」は同時に「エッジが外されていく動き」となります。

また、外脇腹を絞めて「外脇腹にきつさを感じる」ように、あるいは「脇腹に皺がよる」ように意識すると、それをしないときよりはエッジ角が強まり板が強くたわむという効果もあります。(以下に解説)


青直線で示したように左右の写真で頭とブーツの位置は変わりませんが、右写真のように外脇腹に皺を寄せるように(きつさを感じるように)外半身が弓なりになる事を意識すると、その分黄色矢印のように腰がターンインサイドに入り込んでエッジ角が強まります。

このようにしてエッジングの強弱を付けるのですが、身体を弓なりにして、結果腰がターンインサイドに押し込まれ、肩のラインが水平方向に起こされる動きが「エッジングを強める」効果と「切り換えに向かって身体を落としていく動き(エッジを外す動き)」に繋がる事もテクニックの一つとして覚えておくと良いと思います。

ただし、このような脇腹にきつさを感じる姿勢を取るのは2時10時のハイポジションで外半身に軸が出来ている事が必須であり、左写真のようにハイポジションの時に外腰が後ろに引けて股関節が潰れた人がやってしまうと、右のように腰の外向が強まって箸がポキッと折れたポジションになり、板に対して上半身の重さが伝わらないばかりか腰がターンインサイドに深く落とされてしまい次のターンへ繋がらなくなるので、ハイポジションの時に外腰が遅れている人には向きません。