竹中英太郎の戦前挿絵画家時代について調べて行くなかでぶつかった様々な“疑問”。
もう何年も前から気にかかっていたものの、なかなか調査検証が捗らず、自分一人の手には余るようにも考えるようになってきたので、こうなったらネットで公開して、私なんぞよりよっぽど“その辺りは詳しい”人たちから御教示を受けて、いろいろなパズルのピースを当てはめていけないものかとのとてもムシの良い願いを込めて、以下に掲示してみることにしました。

お心当たりのある方は、掲示板にて御教示いただけますと幸いです。


1)あなたはだあれ?

 昭和7年2月6日に三越本店前三共ビル内レストラン「エンプレス」にて行われたという『森下雨村氏の会』で撮影された写真がある。

 ここに掲載させてもらった画像は書籍より引用させてもらった物を加工してあるので人物の判別には難しいかもしれないので、もし手元に昭和36年桃源社刊の江戸川乱歩『探偵小説四十年』があればそちらを御覧いただきたい(かなり無茶な注文かもしれない。現在比較的入手し易い光文社文庫刊の江戸川乱歩全集第28巻『探偵小説四十年(上)』や河出書房新社刊の『江戸川乱歩アルバム』、軽々しく入手し易いとは言い難い沖積舎刊の『新装復刻 探偵小説四十年』にも同じ写真を見る事はできるが、桃源社版の物が一番写っている人物の判別がし易い。講談社刊の江戸川乱歩全集の『探偵小説四十年』と同じ講談社刊の江戸川乱歩推理文庫『探偵小説四十年』には写真掲載が無いらしいが原物を確認できていないのでこちらに関しては何とももうしあげられません。すいません。他にもこの写真を見ることのできる書籍などがあるかもしれないが、さすがにこの写真をみつけることが主題ではないのでここでは割愛する)。

 江戸川乱歩によるこの会についての記述では来会者は二百数十名であったとのことであるが、写真に写っているのは百八名しかいない。便宜上前列左より番号をつけてみた。

 

 

 江戸川乱歩『探偵小説四十年』 昭和36年 桃源社版 P180〜181 に掲載されている写真解説により名前が記載されている方々は、

1)高木楽山  4)鷲尾雨工  5)松村家武  6)木村毅  7)江戸川乱歩  16)神保朋世  18)井上勝喜  

20)本田美禅  21)星野準一郎  22)坪谷水雄  23)久米正雄  24)大橋進一  25)松居松翁  26)森下雨村

27)田中貢太郎  28)甲賀三郎  29)尾佐竹猛  30)大森洪太  31)長谷川伸  32)大下宇陀児  36)岡戸武平

37)伊藤晴雨  38)吉川英治  39)加藤謙一  40)沖野岩三郎  41)高田義一郎  42)淵田忠良  47)井上慶吉

50)志村立美  52)田内長太郎  55)中島親  58)水谷準  63)高橋邦太郎  64)俵藤丈太  69)大木惇夫

70)田中早苗  74)井上良夫  75)辰野九紫  76)久山秀子  81)本位田準一  83)野村胡堂  86)佐々木邦

87)浜尾四郎  90)大宅壮一  91)佐々木味津三  93)岡田三郎  95)松井翠声  97)海野十三  99)戸川貞雄

101)土師清二  107)橋本五郎

 の51名しかいない(番号は便宜上付けている為『探偵小説四十年』の写真説明の順とは合致していない)。会の発起人連名の説明があり、38名の名前のあと“ほか十余名”が発起人になっていたとあるが、その発起人の半分しか写真解説に名前が記されていない。

 

 なぜ、こんなことを取り上げたかというと、何のことはない。ここに竹中英太郎が写っていることに気付いてしまったからである。

 

 さて、ここで問題です。若き竹中英太郎はどこに写っているのでしょうか。番号でお答下さい。…などと遊んでみるのもいいが、正解は15番。

 

 では、なぜ15番の人物を竹中英太郎であると判別するに到ったのか。

 挿絵画家時代の竹中英太郎の写真といった物は極めて現存が少ない。数える程しか無いといっても過言ではない。そんな中からようやくたどりついた一つの資料がある。

 昭和7年2月5日午後6時から芝浦の細川雅叙園で催されたという当時の「軍部」と文壇人との会合、所謂『五日会』の参加者を写した写真である。『五日会』については、竹中英太郎関連の資料などにも見ることができるが、いろいろと尾鰭がついているのではないかと思われていたので、そのまま鵜呑みにすることなく改めて調べてみて行き着いた資料である。『五日会』の参加者の一人である武藤章(当時少佐。写真で一人だけ立っている人物)関連の資料を調査していたところ昭和56年に芙蓉書房から出版された『軍務局長 武藤章』という書籍に辿り着き、その口絵にあった物(この口絵については「昭和6年12月芝浦雅叙園にて」とあるが、東京朝日新聞の昭和7年2月6日の紙面に同会開催の記事が掲載されているので、リアルタイム情報であると信じて新聞の方の日付を一応適切なものと判断してここでは使うこととする)である。

 中央奥の人物が竹中英太郎であり、その横の和服の人物は岩田専太郎である(他の人物については省略する)。ちなみに、東京朝日新聞紙上に掲載された同会の写真に竹中英太郎らしき人物の顔は写っていないが、記事には名前の記載がある。

 先の『森下雨村氏の会』の15番の人物と比較すると、同一人物と判断するにやぶさかで無い…としたわけである。

 さて、こうして江戸川乱歩の写真注釈になかった「竹中英太郎」が『森下雨村氏の会』の写真に写っていて、つまりは同会に参加していたであろうことがわかったわけである。そう考えてみると、こうした「写真」というのも歴史の証人として思わぬ発見があるやもしれず、また、今回は“五日会”や“武藤章”といった方面から「竹中英太郎」に行き着いた一つの事例であるが、他の文壇・画壇関連の当時の写真のどこかに、「ここに写っているのが竹中英太郎ですよ」との説明がなくても人知れずひっそりと竹中英太郎が写り込んでいる可能性が全く無いとは言えないということになる。

 …しかし、である。そうした資料を全部調べるなんて到底一人じゃ無理だもんね。片っ端からそれっぽい書籍などにも目を通してみたりもしたが、これより他に未だ「これ」といった資料や写真に行き着いてはいない。…そりゃ、そうです。そうそうそんなに上手くなんていくもんですか。そんな簡単にあれこれ見つかるようであれば、これまで何十年も竹中労を始めとして竹中英太郎関係の資料をあたってきた人たちがこれに気付かなかった訳が無いじゃないですか。少なくともこの『森下雨村氏の会』の写真に竹中英太郎が写っているなどと言う人などこれまでお目にかかったことがないです。

 後は、竹中英太郎の他に「人知れずひっそりと」写っている人物関連の資料をあたってみるといった線も考えてみる必要もあるかもしれない。

 と、した上で、改めて、『森下雨村氏の会』の写真に写っていながらその江戸川乱歩による説明で名前が詳らかになっていない人たちが誰であるのか?というのも気になってくる次第である。

 当時の博文館から森下雨村が退社するにあたっての会である。発起人に名前を連ねていながら写真にその顔が見えない横溝正史であったり(写ってないよね?)、当時渡欧中だった松野一夫といった名前がこの写真の注釈に出ないのは仕方ないとしても、他に博文館系で挙がってもおかしくない名前はいくらでもあるはずである。…が、現在ではなかなか名前と顔を一致させるのも難しい。延原謙であったり乾信一郎とかは?神保朋世や志村立美や竹中英太郎が並んでいる位なのだから、同時期に活躍していた挿絵画家だって他に写っている可能性は高い。

 例えば48番は、同じく江戸川乱歩の『探偵小説四十年』に掲載されている“昭和7年、講談社が「キング」の主な寄稿家を帝国ホテルに招待したときの記念写真”とある写真(桃源社版P145、光文社文庫版P401)との対比から作家の長田幹彦ではないかと思われるがどうだろう?…同じ写真に写っている挿絵画家の細木原青起を45番の人物するには無理があるか?…画家といえば、石井滴水を9番とするのは…どうでしょう?…等々。

 『森下雨村氏の会』の写真に写っている人物の名前を全部明確にできないか?…というのが御教示いただけないかと思うテーマです。

 中には編集者などおよそ写真などが後世に残されているとは思い難い人も写っているかもしれないと考えれば全員は無理かもしれませんが、江戸川乱歩による注釈が全てで後の人物には名前が無かったというわけでは決してないはずです。もっと言えばこうした駄文を無駄に打ち込んでいる人物がただ無知なだけで普通ならもっと当たり前のように「これは誰で、これは誰某」とわかっているものなのかもしれません。それはそれとして、これから増々こういった昔の著名人の名前と顔が一致しなくなるであろうと思われるようになっていくであろうなか、ひとまずは一つの記録としてこうした物を明確にしていくことも“探偵小説史”であるとか“大衆文学史”とか広くは“日本文芸史”といった面でも何かしらのヒント・手掛かりになるのではないかと考える次第であります(…ちょっと大風呂敷を広げ過ぎているかな…)。どうでしょう?

 ともあれ、こうしたどうでも良いようなことから、別の新しい何かに繋ぐことができないか…という足掻きみたいな作業ではありますが、この番号の人は誰それであるといった御教示、この番号の人物は誰ではないか?といった御意見などありましたら、こちらこちらの掲示板まで是非御教示賜りたくお願い申し上げます。

2012.1.吉日 襟裳屋




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