京都新聞に昭和26年3月11日から昭和35年10月16日の長きに渡り、毎週一回連載されていた『黒門町の伝七捕物帳』。
現在でこそ『伝七捕物帳』といえば陣出達朗の作ということで一般的かもしれないが、元をただせば昭和24年に発足した捕物作家クラブ参加作家たちによる合同企画として執筆されたものであり、陣出達朗は企画立案者の一人であった。
その執筆メンバーは陣出達朗をはじめ、そうそうたる顔ぶれで、横溝正史もその中に名を連ねていたということは、このページを見てくださっているような方にはいわずもがなといったところであろう。
横溝正史による『黒門町の伝七捕物帳』作品は後年全て『人形佐七捕物帳』の中に書き替えられ編入されため、横溝正史作の『黒門町伝七捕物帳』は光文社時代小説文庫から刊行された『競作黒門町伝七捕物帳』の中に収録された『通り魔』一作しか目にすることができないといっても過言ではない(この文庫本ですら現在ではなかなか入手しにくい。また昭和29年から30年にかけて桃源社から刊行された『黒門町伝七捕物百話』全8巻中第4巻にも3作品が収録されているがこちらに至っては光文社時代小説文庫以上に入手することはままならない。もちろん国公立の図書館などで見ることが可能の所もないではないが…)。
横溝正史による『黒門町の伝七捕物帳』作品は、
 『江戸名所図絵』
 『雷の宿』
 『通り魔』
 『船幽霊』
 『宝船殺人事件』
 『幽霊の見世物』
の6作品であるということは、出版芸術社から刊行された『横溝正史時代小説コレクション 捕物篇3 奇傑左一平』の巻末解説をひも解くまでもなく知る人ぞ知るところであったが、やはりこれを実見してみなくては、自分のなかでキチンとした情報にならないと思い、原点である京都新聞版をあたってみた。ついては、折角京都新聞を確認するのなら、他にどんな作家がどれくらい参加していたのかもついでに確認してみた。以下、その一覧である(2007/3/15 一部追加修正)。

 
題 名
作 者
挿 絵
第1話 
 片輪草履  城 昌幸  木俣 清史
第2話 
 火の見小町  佐々木 杜太郎  神保 朋世
第3話 
 翼のある蛇  陣出 達朗  三谷 一馬
第4話 
 餘燼  戸川 貞雄  鈴木 朱雀
第5話 
 十七手殺し  九鬼 澹  野口 昂明
第6話 
 生埋めにされた女  土師 清二  矢島 健三
第7話 
 鼠とり  三好 一光  清水 三重三
第8話 
 神隠し  松波 治郎  村田 閑
第9話 
   山手 樹一郎  中島 喜美
第10話 
 十本の指  高木 彬光  筒井 直枝
第11話 
 女の耳切り  野村 胡堂  志村 立美
第12話 
 江戸名所図絵  横溝 正史  富永 謙太郎
第13話 
 金魚めいわく  村上 元三  野口 昂明
第14話 
 裸ご免の女  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第15話 
 肌を隠す女  陣出 達朗  三谷 一馬
第16話 
 くちなし懺悔  角田 喜久雄  木俣 清史
第17話 
 獅子ッ鼻のお紺  谷屋 充  今村 恒美
第18話 
 手なし娘  島田 一男  村田 閑
第19話 
 おしん殺し  瀬戸口 寅雄  筒井 直枝
第20話 
 馬の笠  水谷 準  鈴木 朱雀
第21話 
 身代り供養  大倉 女華子 注1  富田 千秋
第22話 
 三つ目小僧  柳原 緑風  神保 朋世
第23話 
 蔵座敷  岡田 八千代  野口 昂明
第24話 
 徳利を抱く娘  佐々木 杜太郎  三谷 一馬
第25話 
 月の中の女  陣出 達朗  小林 秀美
第26話 
 ひとり心中  城 昌幸  筒井 直枝
第27話 
 閨捕り秘譚  橋爪 彦七  矢島 健三
第28話 
 五人のお滝  九鬼 澹  神保 朋世
第29話 
 手拭一本  土師 清二  野口 昂明
第30話 
 河童の花嫁  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第31話 
 遊戯呪文  陣出 達朗  土端 一美
第32話 
 カラタチ事件  玉川 一郎  村田 閑
第33話 
 南蠻皿  大林 清  野口 昂明
第34話 
 通い狐  城 昌幸  筒井 直枝
第35話 
 お染茶わん  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第36話 
 春色白粉彫  角田 喜久雄  神保 朋世
第37話 
 小判の賽銭  野村 胡堂  志村 立美
第38話 
 柳橋心中  笹本 寅  鈴木 朱雀
第39話 
 朱房の黒星  谷屋 充  小林 秀美
第40話 
 孔雀娘  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第41話 
 美女観音  陣出 達朗  土端 一美
第42話 
 毛呉呂夜話  北園 孝吉  神保 朋世
第43話 
 涙の花嫁  松波 治郎  筒井 直枝
注2 第44話 
 雷の宿  横溝 正史  矢島 健三
第45話 
 烏凧と百眼  佐々木 杜太郎  神保 朋世
第46話 
 辻斬り柳  城 昌幸  野口 昂明
第47話 
 朧夜に笑った娘  陣出 達朗  三谷 一馬
第48話 
 鍼地獄  佐々木 杜太郎  神保 朋世
第49話 
 五重の塔  土師 清二  木原 三樹
第50話 
 毒を射る女  角田 喜久雄  木俣 清史
第51話 
 酒樽の謎  村上 元三  今村 恒美
第52話 
 螢の夜船  佐々木 杜太郎  中 一弥
第53話 
 地獄と云ふ名の駕  陣出 達朗  神保 朋世
第54話 
 比叡おろし  長田 幹彦  清水 三重三
第55話 
 怨みのうつし繪  佐々木 杜太郎  清水 三重三
第56話 
 乳を刺す  邦枝 完二  三谷 一馬
第57話 
 變化女房  陣出 達朗  神保 朋世
第58話 
 羂の羂  城 昌幸  筒井 直枝
第59話 
 時雨の般若面  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第60話 
 伊太郎殺し  大林 清  野口 昂明
第61話 
 斬られた幽霊  野村 胡堂  神保 朋世
第62話 
 匂い猫  谷屋 充  小林 秀美
第63話 
 月の懸る場所  陣出 達朗  三谷 一馬
第64話 
 謎文東海道土産  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第65話 
 猫魔屋敷  北園 孝吉  神保 朋世
第66話 
 大奥鍋の怪  陣出・城・佐々木 合作  矢島 健三
第67話 
 殺し場雪明り  城 昌幸  三谷 一馬
第68話 
 奥山の手妻師  九鬼 澹  筒井 直枝
第69話 
 相撲鐵砲  佐々木 杜太郎  神保 朋世
第70話 
 変身  陣出 達朗  三谷 一馬
第71話 
 飛脚屋殺し  長田 幹彦  清水 三重三
第72話 
 通り魔  横溝 正史  野口 昂明
第73話 
 湯の中の死体  土師 清二  今村 恒美
第74話 
 恋文鏡  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第75話 
 帯解け盗賊  陣出 達朗  三谷 一馬
第76話 
 ほくろ達磨  北園 孝吉  野口 昂明
第77話 
 色娘  邦枝 完二  清水 三重三
第78話 
 死に恋  城 昌幸  木俣 清史
第79話 
 京からきた女  土師 清二  神保 朋世
第80話 
 まぼろし裸天女  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第81話 
 げらげら狂想曲  陣出 達朗  三谷 一馬
第82話 
 呪われた花笠  高桑 義生  今村 恒美
第83話 
 四つ目小町  長田 幹彦  神保 朋世
第84話 
 指切り絵馬  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第85話 
 ほくろにご注意  陣出 達朗  三谷 一馬
第86話 
 刺青花嫁  谷屋 充  筒井 直枝
第87話 
 女屋敷  城 昌幸  神保 朋世
第88話 
 熊手ざんげ  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第89話 
 獅子っ鼻の竹が殺された  陣出 達朗  三谷 一馬
第90話 
 猫を抱く女  九鬼 澹・北園 孝吉 合作  神保 朋世
注7 通番なし 
 紅の矢羽根 注3  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第91話 
 からくり凧  土師 清二  神保 朋世
第92話 
 化物稲荷  城 昌幸  筒井 直枝
第93話 
 影くじ花嫁  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第94話 
 雪男江戸にあらわる!  陣出 達朗  三谷 一馬
第95話 
 疉針殺し  土師 清二  矢島 健三
注4 番外篇 
 人肌千両  野村・陣出・佐々木・城・土師 合作  三谷 一馬
第96話 
 唐獅子牡丹  北園 孝吉  筒井 直枝
第97話 
 千両鮫  佐々木 杜太郎  神保 朋世
第98話 
 竹さんは馬鹿じゃなかろうか  陣出 達朗  三谷 一馬
第99話 
 雨の三味線堀  土師 清二  矢島 健三
第100話 
 謎の恋文  野村 胡堂  神保 朋世
第101話 
 刺青女難  野村・城・佐々木・陣出・土師 合作  木俣 清史
第102話 
 船幽霊  横溝 正史  三谷 一馬
第103話 
 錦絵の女  大林 清  今村 恒美
第104話 
 狂った筏娘  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第105話 
 二枚の虎  谷屋 充  神保 朋世
第106話 
 鍛冶屋の刀  玉川 一郎  富永 謙太郎
第107話 
 竹さん赤変米試食す  陣出 達朗  三谷 一馬
第108話 
 長者町心中  北園 孝吉  野口 昂明
第109話 
 白萩屋敷の女  高桑 義生  小林 秀美
第110話 
 黄金弁天  野村・城・陣出・土師 合作  三谷 一馬
第111話 
 隠し子佛  土師 清二  志村 立美
第112話 
 さよ吉二人  城 昌幸  野口 昂明
第113話 
 宝船殺人事件  横溝 正史  小林 秀美
第114話 
 すすり泣き地獄  大林 清  神保 朋世
第115話 
 恵方の鬼  青頭巾(作者当てクイズ)注5  三谷 一馬
第116話 
 鶯姫  佐々木 杜太郎  富田 千秋
第117話 
 青岱  谷屋 充  野口 昂明
第118話 
 多情地獄  松波 治郎  矢島 健三
第119話 
 人間鳥  陣出 達朗  三谷 一馬
第120話 
 女郎蜘蛛  土師・陣出・城・野村 合作  小林 秀美
第121話 
 手裏剣小町  北園 孝吉  筒井 直枝
第122話 
 迷子札百両  土師 清二  野口 昂明
第123話 
 二人伝七  大林 清  神保 朋世
第124話 
 幽霊の仇討ち  城 昌幸  富田 千秋
第125話 
 青空浪人  松波 治郎  今村 恒美
第126話 
 竹さんの大難  高桑 義生  三谷 一馬
第127話 
 女釣り騒動  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第128話 
 美貌の夜叉  谷屋 充  清水 三重三
第129話 
 幽霊が殺された  陣出 達朗  小林 秀美
第130話 
 幽霊の見世物  横溝 正史  野口 昂明
第131話 
 五角庵の二人の客  北園 孝吉  山崎 百々雄
第132話 
 生き口死に口  城 昌幸  富田 千秋
第133話 
 二人お鈴  松波 治郎  富永 謙太郎
第134話 
 三日月  玉川 一郎  今村 恒美
第135話 
 釣瓶心中  土師 清二  三谷 一馬
第136話 
 お湯屋の娘  田井 眞孫  神保 朋世
第137話 
 女役者因果噺  瀬戸口 寅雄  三谷 一馬
第138話 
 朱染紺屋  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第139話 
 山城屋騒動  大林 清  野口 昂明
第140話 
 花嫁小判  野村・土師・城・陣出 合作  清水 三重三
第141話 
 お猿と紅玉  谷屋 充  小林 秀美
第142話 
 風来坊ごろし  城 昌幸  富田 千秋
第143話 
 道中化粧  北園 孝吉  今村 恒美
第144話 
 時雨花道  松波 治郎  野口 昂明
第145話 
 悲願の纏  陣出 達朗  神保 朋世
第146話 
 菜種河豚  土師 清二  三谷 一馬
第147話 
 隠し鉄砲  玉川 一郎  木俣 清史
第148話 
 怪異 花の雨  高桑 義生  富田 千秋
第149話 
 牢破りの鬼  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第150話 
 女狐駕籠  陣出 達朗  清水 三重三
第151話 
 小町娘の謎  瀬戸口 寅雄  今村 恒美
第152話 
 紅瀧の鯉  谷屋 充  野口 昂明
第153話 
 江戸ッ子娘  松波 治郎  小林 秀美
第154話 
 二人妻  城 昌幸  神保 朋世
第155話 
 狸にされた娘  田井 眞孫  三谷 一馬
第156話 
 おもかげ燈籠  北園 孝吉  筒井 直枝
第157話 
 大川夏狂い  大林 清  木俣 清史
第158話 
 詐欺師の死  土師 清二  野口 昂明
第159話 
 明月祭文唄  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第160話 
 幽霊参る  高木 彬光  今村 恒美
第161話 
 お歯ぐろ壺  谷屋 充  神保 朋世
第162話 
 七兵衛  玉川 一郎  三谷 一馬
第163話 
 変幻根岸の寮  瀬戸口 寅雄  清水 三重三
第164話 
 人気役者の死  高桑 義生  小林 秀美
第165話 
 冨嶽盗難  陣出 達朗  神保 朋世
第166話 
 七草日和  野村 胡堂  鴨下 晃湖
第167話 
 美女蝙蝠  野村・城・谷屋・陣出・土師 合作  野口 昂明
第168話 
 お町お照  松波 治郎  三谷 一馬
第169話 
 幻の鬼女  城 昌幸  今村 恒美
第170話 
 久松土蔵  黒部 渓三  小林 秀美
第171話 
 江戸の鬼女  高木 彬光  神保 朋世
第172話 
 銀蛇呪文  野村・陣出・土師・城 合作  清水 三重三
第173話 
 色情の鬼  大林 清  野口 昂明
第174話 
 灯取り虫  土師 清二  三谷 一馬
第175話 
 四本指の男  瀬戸口 寅雄  小林 秀美
第176話 
 耳右ェ門  北園 孝吉  矢島 健三
第177話 
 成田みやげ  谷屋 充  神保 朋世
第178話 
 黒頭巾  玉川 一郎  今村 恒美
第179話 
 菊人形の怪  陣出 達朗  野口 昂明
第180話 
 女の仮面  高桑 義生  三谷 一馬
第181話 
 女殺しの裏目  佐々木 杜太郎  矢島 健三
第182話 
 髑髏狂女  野村・陣出・土師・城 合作  鴨下 晃湖
第183話 
 三つ首塚  黒部 渓三  神保 朋世
第184話 
 櫛うらみ  城 昌幸  志村 立美
第185話 
 あいびきの女  瀬戸口 寅雄  小林 秀美
第186話 
 河童裁き  谷屋 充  木俣 清史
第187話 
 女狐  高木 彬光  三谷 一馬
第188話 
 花妖  陣出 達朗  野口 昂明
第189話 
 三人小町  松波 治郎/田井 眞孫 注6  矢島 健三
第190話 
 人魚地獄  野村・陣出・土師・城 合作  神保 朋世
第191話 
 眼の敵  北園 孝吉  小林 秀美
第192話 
 空気銃殺人  土師 清二  三谷 一馬
第193話 
 消えた花嫁  瀬戸口 寅雄  野口 昂明
第194話 
 最後の切札  谷屋 充  矢島 健三
第195話 
 丑の刻参り  城 昌幸  野口 昂明
第196話 
 お澄の小指  大林 清  志村 立美
第197話 
 かんざしの謎  高桑 義生  神保 朋世
第198話 
 状をくわえた女  陣出 達朗  三谷 一馬
第199話 
 濡れ紙の謎  土師 清二  野口 昂明
第200話 
 女肌地獄  城・土師・陣出・野村 合作  志村 立美
第201話 
 竹さんの色難  城 昌幸  清水 三重三
第202話 
 鯨が知ってる  田井 眞孫  神保 朋世
第203話 
 弁天獅子  佐々木 杜太郎  鴨下 晃湖
第204話 
 魔性の恋  瀬戸口 寅雄  小林 秀美
第205話 
 鬼の念佛  北園 孝吉  三谷 一馬
第206話 
 地獄への旅  大林 清  木俣 清史
第207話 
 女狐蝋燭  陣出 達朗  野口 昂明
第208話 
 色後家殺し  高木 彬光  矢島 健三
第209話 
 二人源三郎  谷屋 充  富永 謙太郎
第210話 
 小判おろし  土師 清二  清水 三重三
第211話 
 幽霊飛脚  野村・陣出・城・土師 合作  神保 朋世
第212話 
 自分の影  玉川 一郎  鴨下 晃湖
第213話 
 二百両秘聞  瀬戸口 寅雄  小林 秀美
第214話 
 夜明けの死美人  高桑 義生  三谷 一馬
第215話 
 京土産ばなし  城 昌幸  木俣 清史
第216話 
 江戸湾台風  田井 眞孫  野口 昂明
第217話 
 人形寺の怪  陣出 達朗  神保 朋世
第218話 
 歳暮ばやし  北園 孝吉  矢島 健三
第219話 
 雪の魔女  佐々木 杜太郎  三谷 一馬
第220話 
 大黒天縁起  土師 清二  富永 謙太郎
第221話 
 夜叉牡丹  陣出 達朗  志村 立美
第222話 
 唖の太鼓  谷屋 充  清水 三重三
第223話 
 投げ文秘聞  瀬戸口 寅雄  今村 恒美
第224話 
 青ハブはどこにいる  田井 眞孫  鴨下 晃湖
第225話 
 死水代金百両  城 昌幸  小林 秀美
第226話 
 一分金の行方  玉川 一郎  木俣 清史
第227話 
 怪猫の齒形  高木 彬光  神保 朋世
第228話 
 さいころ娘  北園 孝吉  三谷 一馬
第229話 
 色欲地獄  大林 清  矢島 健三
第230話 
 つけ鼻奇譚  土師 清二  富永 謙太郎
第231話 
 − 未確認 −  − 未確認 −  − 未確認 −
第232話 
 月に消えた女  高桑 義生  野口 昂明
第233話 
 笑われる彼奴  陣出 達朗  清水 三重三


 題名太字は桃源社より刊行された「黒門町伝七捕物百話」全8巻に収録された作品。
 注1 … 作者名大倉テル子の「テル」の文字は「火」偏に旁が「華」だがPC環境上で表記できないので便宜上の表記

 注2 … 第43話までは一回読切。第44話より発端篇/解決篇の二回で一話構成。
 注3 … 「繪話」として一回読切、(下 注7 を参照のこと)

 注4 … 松竹映画化記念として番外扱い
。ただし、以後何度も続く映画化の際には特に番外という扱いは無し。
 注5 … 作者当てクイズなので、ここでは敢えて作者名を秘す

 注6 … 発端篇著者松波治郎が急逝したため、
田井眞孫が解決篇を担当。
 注7 … “第何話”という表記がなく、また“番外”との記載もない掲載。前後の掲載作品が通番として連続している為、一応“通番なし”としておく。
     掲示板にて「通りすがり 様」より御教示いただき、2007年3月15日追加訂正しました。 


以上が確認できたところの京都新聞版『黒門町の伝七捕物帳』全235作品(番外・通番なし二話を含む)の概略である。資料の実見確認は主にマイクロフィルム化されている資料をあたってのものである。このマイクロフィルム資料の中には欠損や保存状態があまりにもひどい物などもあり、確認することがむずかしい物もあったが、そういった欠損部は、京都府立総合資料館に所蔵されいる原本まで確認してもらうという労をとっていただくことによって補うことが出来たが、第231話は確認することが出来ず、未確認という表記にしてある。これは、第230話と第232話はそれぞれ確認できたので、その間にあるはずの第231話をさがしてはみたのだが、掲載されているはずの紙面に見当たらないのである。はてさて、途中掲載曜日が変更されたり、紙面編集の関係で掲載頁が従来と違っているといったことなども時折あったりと、約十年の連載期間の間にはいろいろと確認することも面倒ではあったのだが、それでも他はなんとか確認することができたというのに、この一話だけ確認できないというのも残念でならない。もしこの情報を御存じの方は御教示いただければと切に願うところである。
挿絵画家名を記載してあるのは、新聞紙面での連載という体裁のなかで、その挿絵も重要な役割を与えられていたことは今回の実見の中で強く感じられ、また、その連載に先立っての告知にも
“さし絵もその都度コンビを変え、同じく捕物作家クラブに属する第一線のさし絵画家たちが腕を揮つて”
とあるくらいなのだから、捕物小説クラブによる合同作品ということであれば、小説部の作家だけの名前を表記して済ますというのも片手落ちであるとの思いもあり併記した(勿論、近年集中している別探究方面の影響も甚大であるということも否めないが…)。
ついでながら記載しておくと、光文社時代小説文庫刊行『競作黒門町伝七捕物帳』巻末解説にもあるように、『黒門町伝七捕物帳』は京都新聞連載と同時進行で『面白倶楽部』や『小説倶楽部』にも掲載されていたようで、桃源社刊『黒門町伝七捕物百話』全8巻中に収録された作品の中には京都新聞掲載作品に見られない無いものもあることから、これらはこうした雑誌掲載用として書かれた物なのかもしれないと思われるが、さすがに雑誌掲載の物全てを調査するまでには至っておらず、こちらは確認できていない。
横溝正史による『黒門町伝七捕物帳』の雑誌掲載分は確認できている範囲で下の三作品。いずれも京都新聞掲載作品を再録したもの。


江戸名所図絵
雷の宿
通り魔
『読切小説集 臨時増刊 捕物二十六人集』より
昭和28年1月
臨時増刊 読切小説集 競艶捕物集』より
昭和28年10月
臨時増刊 読切小説集 艶麗小説特選号』より
昭和29年10月
中 一弥
今村 恒美
富賀 正俊

京都新聞には、連載終了後、陣出達朗へのインタビュー記事が掲載された。題して「伝七作家よもやまばなし」。
『黒門町伝七捕物帳』に関しては、その成立に関して、具体的に語られた資料が少ないだけに興味深い。一部を引用する。

そもそものはじまりは、三ヵ月ばかり講談に毛のはえたようなものを載せたんです。ところが、これがうけなかった。そこで「では、捕物帖はどうだろう」ということになった。ぼくははじめ一人で書くつもりだったのですが、これが延々と続くとなるとほかの仕事ができなくなる。結局、捕物作家クラブの幹部連三人によびかけて、リレーでやろうということになった。これがはじまりです。いよいよはじめるとなると、主人公にどんな名前をつけようかと迷ったわけです。そのとき、サイレント時代に「大岡政談」の映画があって、そのタイトルに「黒門町の−−」というのがよく出ていた。これを思い出したんです。「黒門町−−ウン、これはいける」ということになった。捕物帖の場合、岡ッ引の名前に“ン”がはいるとうけるんです。そうしているうちに、会員の一人が「名前は“伝七”でどうだ」といってきた。“伝七”…はじめは、ちょっといやな名前だと思ったのですが“ン”がはいっているし、どろ臭いのもいいだろうということで、結局“伝七”にきまった。

言うにこと欠いて「これが延々と続くとなるとほかの仕事ができなくなる」とは、連載前だというのに、それほど延々と連載を続けられる程人気を得るだけの物を書ける自信があったのかどうか。このあたりは十年近くも連載を続けた『黒門町伝七捕物帳』というものがあったからこそ言えたことで、少なからず誇張があったと思われなくも無いが、案外成りゆきで人気シリーズのタイトルが決定されたことなどが生々しく語られていて面白い。『黒門町の伝七捕物帳』は京都新聞での連載を終えた後も陣出達朗の専売特許のような形で『伝七捕物帳』として成長を続けて行き、現在は光文社文庫から『伝七捕物帳 新装版』として一巻、春陽文庫から『伝七捕物帳』全三巻が刊行されているが、これらに収録された作品と京都新聞掲載時の陣出作品との対比はここでは省略する。

こうして十年近くもの間人気を博した『黒門町伝七捕物帳』は、当時の捕物帳人気や、度々の映画化(後に中村梅之助主演でTVドラマ化されて大評判をとったが、これは新聞連載終了十年以上も経った後の陣出達朗原作としたものと考え、これも特に触れることを差し控える)などに後押しされたこともあったことと思われる。
しかし、一地方新聞である京都新聞で好評を博していたからといって映画化されるというのも、全国誌での人気小説の場合とは違い、珍しい話だと思わざるを得ない。こんな破格な話しがまかり通るというのもやはり“京都”という土地柄ということ抜きには考えられない。京都は時代モノの映画制作などが盛んな土地である。当然映画化は松竹京都で行われている。この映画を全国各地で見た人は、果たして京都新聞連載小説を読むこともできないで、この十本以上も作られることになる高田浩吉主演のヒット映画シリーズをどんな風に受け止めていたのであろうか?

捕物小説クラブという作家集団の合同作品、一地方新聞連載でありながらも映画化などで幅広いファンを獲得した作品、五十人余(挿絵画家も含む)の作家の手により十年近くも連載が続けられた作品と極めて希有な作品でありながらも、現在ではあまりその原典までは振り返られることのなくなってしまった『黒門町の伝七捕物帳』。確かに紙面の関係や前編は出題、後編は解決編として構成しなければいけないといった制約などもあったことも影響してか、作品としては「ちょっとこれはきつくないか…?」といった作品も中には見られなくもないと言えないこともないが、そういったものを差し引いても、改めて、昭和二十年代中半から昭和三十年代中半という時代にこうした作品があったということ(或いはそうした時代でなければ成立しなかったかもしれない作品として)は記憶され直してもいいのかもしれない。




襟裳屋 TOPへ戻る