今週の荘子（2002.12.02-12.22）

 
一受其成形、不亡以待盡。
與物相刃相靡、其行如馳、
而莫之能止。
不亦悲乎。
終身役役、而不見其成功。
苶然疲役、而不知其所歸。
可不哀邪。
人謂之不死、奚�u。
其形化、其心與之然。
可不謂大哀乎。
人之生也、固若是芒乎。
其我獨芒、而人亦有不芒者乎。

（斉物論篇）

一たび其の成形を受くれば、
亡はずして以って盡（つ）くるを待て。
物と相い刃（じん）し相い靡（び）せば、
其の行くこと馳するが如くにして、
而も之を能く止むるもの莫し。
亦（また）悲しからずや。
終身役役として、其の成功を見ず。
苶然（でつぜん）として疲役し、
其の歸する所を知らず。
哀しまざる可けんや。
人之を死なずと謂うも、
奚（いずく）んぞ�u（えき）あらん。
其の形化し、其の心之と然り。
大哀と謂わざる可けんや。
人の生まるるや、固（もと）より是の若く芒（くら）きか。

其れ我獨り芒くして、人亦不芒かざる者有るか。

人は、ひとたび形を受けて生れたならば、

生命を喪うことなく、自然に尽きるまで待とう。

周囲の物を傷つけあい、互いに消耗していては、

人生は駆け足で過ぎ去り、長生きはできない。

なんと悲しいことではないか。

一生あくせくし、其の効果を見ることもできない。

くたくたに疲れても、帰るところが見つからない。

なんと哀れなことではないか。

世間の人が、「生きてるじゃないか」と謂ってくれても

なんの役に立とうか。

肉体が衰え、心もそれに伴って萎えてしまったのである。

大きな悲劇というべきだろう。

人がこの世に生れてくるのは、このように愚かなことなのか？

それとも、自分だけが愚かで、

他に愚かでない者がいるのだろうか？

荘子からの、人生に関する問題提起である。

「そんなにあくせくして、身心をすり減らし、命を縮めてよいのか？」

問題と思わなければ、「これが人生」と思って過ぎ去っていく。

問題と捉えて、変えようとしなければ解決していけない。

キーワードは、「亡（うしな）う」であろうか。

これは自分の主体的な選択によって回避できる、生命の磨耗である。

世に生きることが、磨耗でわるとするなら、磨耗をできるだけ少なくする

生き方をしたほうがよいだろうという。

これが、「盡（つ）くるを待つ」だろう。

「其の形化し、其の心之と然り。」も大切な言葉である.。

肉体が疲弊すると、心も清新さを失ってくる。

過密労働が、うつ病を誘発することが知られている。

身体だけでなく、精神が疲れ果てると、生きる意欲を失ってくる。

「生きている」と人は言うが、本人の心は死んでいる。

「相い刃（さから）い相い靡（そこな）う」ような気力も無くなっている。

頭でわかっていても、どうしようもない。

「亡（うしな）う」現象は、自分で気づいたときに、主体的に回避

しなければならない。

何故ならば、自分の命は、自分でケアしないといけないからである。

注：

☆相刃相靡

刃は、傷つける。　靡は、費やす、消耗する。

☆ 終身役役、而不見其成功

役役は、心をすり減らすこと。

成功は、効果。

☆苶然

疲れ果てた様子。

記：有無相生