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薬物!ねこねこ大事典

毒物や薬剤についての大事典(をめざす)ページ


目次

植物の毒動物の毒菌類の毒微生物の毒無機物の毒人工的な毒ドラッグ医薬その他
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注意

 このページに書かれている内容を悪用しちゃ駄目よ。それから調査不十分な項目もあるので間違ったことが書かれている可能性があります。それらの情報の利用による損害についての責任は負えませんのであしからず。

黒猫からの一言・二言

 ほとんどすべての薬には副作用という毒性があり、また多くの毒には薬として研究された歴史があります。毒と薬はまさに紙一重だということです。参考:いろいろな薬の作用・副作用などが平易に書かれているページ「薬のガイド」はこちら。このnihsのホームページには他にも毒物劇物取締法の全文とか解説とかもあるので読んでみるといいかも。(URL忘れたのでリンクは今のところトップページに張っております。探して下さい。)

 で、数が増えて収拾がつかなくなってきたので化合物をその由来で分類しました。でも実は分類には難がある(だから今までやらなかった)。例えばテトロドトキシンはフグ毒(動物毒)だが、実際は微生物がつくっている(微生物毒)し、アトロピンはナス科の植物毒だけど、医薬にも使われているし。というわけで分類は私の独断と偏見で決まっています。

大論撃大会はいちおう終了しました。いろいろなご意見をありがとうございました。 → 結果はこちら


植物の毒

 植物に含まれる毒成分はほとんどが窒素を含む化合物であり、その水溶液がアルカリ性を示すのでアルカロイドと総称されている。その毒の強さは微量でも数分で人を死亡させうるものから比較的大量に摂取しても命に別状のないものまで様々である。また症状も神経に作用するもの、心臓に作用するもの、呼吸に異常をもたらすもの、消化器症状を示すもの、皮膚に炎症を起こすものなど多彩である。

アコニチン

トリカブトの根に含まれる複雑なアルカロイド。猛獣を倒すための矢毒として、また漢方で鎮痛薬として使用されたが、非常に強い毒性を持つ危険な薬物である。摂取により呼吸困難、心臓発作を引き起こす。これは神経細胞のナトリウムチャネルの透過促進作用に関連すると思われる。類似した毒物はキンポウゲ科植物に多く見いだされメサコニチン、リコクトニン、デルフィニンなどが知られている。


アトロピン

 

多くのナス科植物に含まれるアルカロイド。左の構造式の化合物ヒオスシアミンのラセミ体を特にアトロピンという。その毒性は神経伝達物質アセチルコリンの受容体をブロックして、神経の伝達をストップさせてしまうことによる。症状としては瞳孔散開、頻脈、血圧低下、体温低下がおこる。神経ガス中毒者はアセチルコリンを分解する酵素が阻害されて神経が興奮したままになっているので、この作用で症状を緩和することができる。またけいれんを抑える薬としても使用される。


アニサチン

シキミの実に含まれる毒。シキミの実は抹香の原料として使われるためか、植物として唯一「劇物」に指定されている。


アミグダリン

未熟な梅やアンズの実や種に含まれている物質である。胃酸によってグルコースとベンズアルデヒドと青酸に分解し、毒性を示す。


ウルシオール

ウルシの樹脂に含まれる毒性物質。皮膚に触れると激しい炎症、かぶれを引き起こす。なお側鎖に二重結合が含まれるものもあるが、毒性は同じである。


エメチン

アカネ科の吐根に含まれる。吐根は食べるとその名の通り吐き気がする毒植物であるが、漢方薬として利用されている。胃粘膜や気管を刺激して催吐作用・去痰作用を示す。また抗原虫作用があり、アメーバ赤痢の治療に利用される。


ガランタミン

ヒガンバナ・スイセンなどのヒガンバナ科の植物に含まれる毒。アセチルコリンエステラーゼを阻害する。食べる人はあまりいないように思えるが(でも毒を取り除けば良いデンプン質であるので、昔は飢饉のときなどには十分な灰汁抜きをして食べたらしい。)、花がない時期にはノビルと間違えやすく、食べて入院する人がいるので注意。


ギンゴトキシン

ギンナン(言わずと知れたイチョウの実)に含まれる毒成分。ビタミンB6に拮抗し、脳内でグルタミン酸から神経の興奮を抑制するGABAが生成する過程を阻害する。そのために痙攣等の中毒症状を示す。子供にギンナンを年の数以上食べてはいけないというのはこれが理由。大人では個人差が大きいが20個以上食べると中毒になる危険がある。


コニイン

毒ニンジンに含まれるアルカロイド。ソクラテスの処刑に使用された毒物である。中毒症状は中枢神経と運動神経の興奮につづく麻痺で、最終的には呼吸を麻痺させる。ニコチンも同様の毒性を持つ。


コルヒチン

イヌサフランの種子、根に含まれるアルカロイド。痛風の発作に有効。その他に細胞分裂において染色体分裂を阻害せずに細胞質分裂のみを阻害する作用(毒性?)が知られている。そのために染色体が倍数化した細胞がつくれる。これは種なしスイカの作成に利用されている。


ジギトキシン

ジギタリス(キツネノテブクロ)の葉に含まれる強心配糖体。強心薬としても使われるが体内からの排泄が遅く蓄積するので連続使用では毒性が現れやすい。


シクトキシン

ドクゼリの毒成分。植物毒にはめずらしい構造を持っている。


ストリキニーネ

フジウツギ科ホミカの種(マチンシと呼ばれる)に含まれるアルカロイド。主に脊髄の中枢神経に作用し、シナプスの後抑制を消失させニューロンの興奮しきい値を低下させる。そのためわずかな刺激が加わっただけで反射性強直性の四肢の痙攣を起こす。


スパルテイン

マメ科エニシダに含まれるアルカロイド。不整脈の改善作用、子宮収縮作用を持ち薬としても使用される。また、有機合成においても不斉源として使用される。神経毒性があるらしい。


ソラニン

ジャガイモの新芽に含まれる毒物。原形質毒であり、強力な溶血作用を示し体液電解質のバランスを狂わせる。またコリンエステラーゼにも作用する。摂取により吐き気、頭痛、胃炎、運動神経の麻痺などを引き起こす。ただし大量摂取でない限り致命的になることはまれ。


ツボクラリン

クラーレとして知られている運動神経と筋肉の接合部位を麻痺させて筋肉を弛緩させる毒である。呼吸筋が麻痺すれば窒息する。南米の熱帯林に住む原住民が吹き矢に塗る毒として狩りに使用していた。食べる分には毒性はない。現在でも外科手術の際に筋肉を弛緩させる薬として使用されている。


ニコチン

タバコに含まれる有名なアルカロイドだが立派な毒物である。普通のタバコ3本に含まれる量でだいたい大人1人分の致死量に相当する。といってもタバコ吸ったときに体内に吸収されるのは数%だろうが。自律神経系を刺激、のち麻痺させる。なお、古くから殺虫剤として使用されていた。


ハルミン

ハマビシ科ハルマラの種に含まれる毒。MAO(モノアミンオキシダーゼ)を阻害する作用があり、アドレナリンやドーパミンなどの神経伝達物質や一部の幻覚剤の代謝を妨害して、体内に蓄積させ作用を強める。


フィゾスチグミン

カラバル豆という豆に含まれる毒。アセチルコリンエステラーゼを阻害する。


プタキロサイド

ワラビに含まれる毒成分。牛などが食べて骨髄障害を起こす。また強力な発ガン性物質であることが知られている。この毒は熱に弱く、また水溶性であるため、充分にあく抜きをして、熱を通して食べれば安心である。


ヨヒンビン

古典的バイアグラとでもいう物質。催淫薬として古くから漢方に使用されてきた。アドレナリンαブロッカーの活性を持つ。


リコリン

ガランタミンとともにヒガンバナ・スイセンなどのヒガンバナ科の植物に含まれる毒。催吐作用を持つ。

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動物の毒

 動物自身が産出する毒は主にタンパク質からなっているためにその詳しい成分研究は一部のものを除いて進んでいない。一方で動物に共生する微生物が産出する毒は食中毒などの原因毒素として比較的研究が進んでいる。

オカダ酸

奇妙な名前だが岡田さんが発見してついた名前ではない。Halichondria okadaiという生物(クロイソカイメンのことらしいです:情報どうもありがとうございます)から得られたのでこう命名された。それならオカダイ酸と呼ぶべきだと思うが、英語名の字訳になってしまっている。下痢性貝毒の原因となる毒物質のひとつである。が、一方で発ガン促進作用と抗ガン作用(要は細胞毒作用)も持っているらしい。類似化合物にディノフィシストキシンがある。


カンタリジン

マメハンミョウという虫の持つ毒である。皮膚に触れると炎症や水疱を起こす。また内服すると腎臓に障害を起こす。東洋において古くから用いられてきた毒である。また催淫作用もあるらしい。


サキシトキシン

ある種の藻類が産出する毒性物質で、その藻類を食べる二枚貝(特にホタテ貝)やオウギガニがこの毒を蓄積する。そのため麻痺性貝毒として知られている。毒性はテトロドトキシンと同様で、少量摂取では顔や舌の痺れ、手足の麻痺、重症になると呼吸筋の麻痺による呼吸困難を引き起こす。化学兵器としても知られている。また類似した毒物にゴニオトキシンがある。


シガトキシン

シガテラと呼ばれる食中毒の原因物質の1つ。ある種の藻類がつくる毒物であり食物連鎖により肉食魚の内臓に濃縮される。天然毒としては最強の部類に入るが、含有量が少ないため深刻な中毒を起こすことは少ない。毒性はナトリウムチャネルの透過促進によるもので、症状は主に手足のしびれと冷感覚が異常に強くなることで、暖かいものさえ冷たく感じる。このような縮環ポリエーテル化合物は、海洋性のプランクトン由来の毒成分としてよく見いだされ、他にブレベトキシン(赤潮中の魚を殺す毒)、マイトトキシンなどが知られている。


テトロドトキシン

フグの毒として有名だが、ヒョウモンダコ(古くはマクロトキシンと呼ばれていた)、ある種のハゼ、カリフォルニアイモリ(古くはタリカトキシン)、コスタリカの数種のカエルなどもこの毒をもっている。これらの生物と共生している細菌がつくっているものと考えられる。神経細胞のナトリウムチャネルに蓋をしてしまい、神経の信号をストップさせてしまう。呼吸中枢の麻痺により窒息するのが死因であるので、人工呼吸器によって助かることが多い。


ドーモイ酸

赤潮中の藻類から見いだされた毒であり、貝毒の原因となる物質である。この毒による貝毒は特殊であり消化器症状以外に記憶喪失を引き起こす。記憶喪失性貝毒の発症例は日本では今のところないが、この毒をつくりだす藻類の存在は確認されている。なお、この毒は少量ではカイニン酸と同様、駆虫作用を持つことが知られている。


バトラコトキシン

ヤドクガエルの粘液に含まれる毒である。ヤドクガエルはその名の通り狩猟の際に矢に塗る毒を取ったことから名付けられた。神経細胞のナトリウムチャネルの透過促進作用を持つ。なお、ニューギニアに住む鳥の中にこれとよく似た毒(ホモバトラコトキシン)を持つものがいる。(毒鳥というのは非常にめずらしい)


パリトキシン

イワスナギンチャクの持つ猛毒だが、これの卵、幼生を捕食する魚類もこの毒を蓄積する。中毒症状は手足のしびれや筋肉痛、筋肉低下がおもな症状で、場合によっては痙攣もおきる。また強い発ガン性を持つ。他の海産毒に比べると非常に水溶性が高い。


ヒスタミン

アレルギー性鼻炎などで有名な神経伝達物質の一種。スズメバチなどに刺されたりした場合には、この物質が大量に放出されアナフィラキシー・ショックという危険な状態になる。ハチの毒液自身にも含まれる。また胃酸の分泌を活性化させる作用もあり、大量の放出は胃潰瘍の原因にもなる。


ブホタリン

センソ(いわゆるガマの油)に含まれる毒性物質。心臓の拍動を強める作用があるため、心不全治療薬として使われた。健常者が摂取した場合には動悸を起こす。


ブホテニン

センソ(いわゆるガマの油)に含まれる毒性物質。幻覚作用を持つ。また発ガン性が確認されている。


マイトトキシン

おそらく現在構造が知られている天然物中(高分子やタンパク質を除く)で最も大きな分子量と複雑な構造を持つである。シガトキシンを産出する藻類がこの毒をともに生産しており食中毒の原因となっている。カルシウムチャネルの透過促進作用を持つ。

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菌類の毒

 菌類(カビ・キノコ)の毒は多彩で致死的なものや発ガン物質から幻覚を起こすものや酒に弱くなるものという妙なものまでそろっている。

アクロメリン酸

日本独自の毒キノコであるドクササコに含まれる。この毒は中枢神経のグルタミン酸受容体に結合して強い興奮を起こさせる。しかし、ドクササコの主な毒性である数十日間の間、手足の指が腫れ上がり痛み続けるという毒性はこの成分だけでは説明できないようである。


アフラトキシン

カビに含まれる猛毒かつ発ガン性の物質。左の構造式はもっとも毒性の高いアフラトキシンB1のもの。さいわいにも日本のカビには発見されていないようである。


アマニチン

タマゴテングタケ、ドクツルタケ、コレラタケなどに含まれる猛毒。加熱に対して安定で、調理では毒性をまったく失わない。RNAポリメラーゼを阻害し、タンパク質合成を不可能にするため各臓器の細胞が破壊される。コレラ様の激しい嘔吐、下痢がまず起こり、それがおさまると続いて劇症肝炎、腎不全等の多臓器不全を起こす。左図は最も毒性の高いα-アマニチン。


イボテン酸

テングタケ、ベニテングタケに含まれる毒。中枢神経のグルタミン酸受容体に結合する。その結果、異常な興奮、平衡感覚の異常や記憶の混乱を起こすと思われる。イボテン酸はグルタミン酸同様、旨味を持つとされている(でも毒)。またテングタケの煮汁を蠅を殺すのに使う地方があり、テングタケ属にはハエトリタケの別名がある。


イルジンS

ツキヨタケの毒成分。激しい下痢などの消化器症状を引き起こすが、強い抗ガン作用も持っている。ツキヨタケはシイタケ、ヒラタケ、ムキタケによく似ているので最も中毒を起こしやすいキノコのひとつである。ツキヨタケには、ものが青白く見えるという幻覚作用もあるが、これはイルジンSだけでは説明できない。


エルゴメトリン

LSDと同じリセルグ酸の誘導体であり、ライ麦に寄生する麦角菌から得られる。強力な子宮収縮作用を持つため、古くから産後の出血防止、胎盤排泄の促進に使用されてきた。が、強力であるが故に毒性も強く、麦角菌に汚染されたライ麦からつくったパンで食中毒になる例も古くから知られている。


コプリン

ヒトヨタケ・ホテイシメジ等に含まれる毒?。体内で加水分解されてから、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼを阻害する。すなわちエタノールの代謝を阻害するため、酒類を飲むと激しい二日酔いの症状を示す。逆に酒類を飲まなければ何の症状も示さず、おいしくいただける。代謝の阻害は数日間継続するので食べてから2日後に酒類を飲んでも中毒を起こす。なお、ジスルフィラムという同様の作用を持つ薬がアルコール依存症治療用(嫌酒薬)として利用されている。


シロシビン

マジックマッシュルーム(ニライタケ)、ワライタケ、シビレタケ等に含まれる毒?。体内で末端リン酸エステル部が加水分解され、シロシンとなって活性化する。中毒症状はLSDに類似し、主に視覚に対して幻覚を起こす。


ゼアラレノン

女性ホルモン作用を持つカビ毒。この毒を産出するカビに汚染されたエサを食べたブタが発情することから発見された。人体に対する影響は不明。


ムシモール

テングタケ属に含まれる毒。中枢神経系のGABA受容体に結合し、強い神経抑制作用を示す。古代に巫女がテングタケを食べて忘我状態になって予言をしたというのは、この作用によると思われる。が、やはりテングタケに含まれる毒性分であるイボテン酸は逆に強い神経興奮作用を示すのでよく分からない点も多い。


ムスカリン

アセタケ、テングタケ等に含まれる毒。副交感神経を刺激するため発汗、血圧上昇、痙攣等が起こる。もっともテングタケ属に含まれるムスカリンは微量であるので、テングタケ属によるこれらの症状は他の未知の毒成分の寄与がある可能性が高い。

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微生物の毒

アナトキシン

水の華の原因となる藻類が産出する毒。欧米で家畜がこれに汚染された湖の水を飲んで中毒を起こし、水の華を発生させる富栄養化が問題となった。アセチルコリン受容体(ニコチン様レセプター)に結合して神経の興奮伝達を遮断する毒である。


エンテロトキシン

黄色ブドウ球菌をはじめとする様々な細菌が産出する毒。耐熱性のものと易熱性のものがある。易熱性のものはコレラ毒素に類似する。一方、耐熱性のものは熱だけでなく酸や消化酵素にも安定である。そのため最もよく見られる食中毒の原因物質となっている。潜伏期が2時間以下と短いのが特徴で嘔吐が主症状。


コレラ毒素

タンパク質

コレラ菌が産出する毒素。腸での水分・電解質吸収のバランスを崩し、嘔吐と米のとぎ汁様の激しい下痢を起こす。また体内からの水分・電解質の喪失による脱水症状から循環器不全・腎不全を起こすことになる。


ブレベトキシン

数種類の変種が知られている。構造式はブレベトキシンBのもの。赤潮中に含まれる藻類から魚類を殺してしまう有毒成分として発見された。また、赤潮に襲われた二枚貝はこの毒を蓄積するので、神経性貝毒の原因物質としても知られている。その症状は口の中がやけどしたようにヒリヒリし、それが顔から全身に広がる。また、まるで酔ったかのように平衡感覚などに異常が現れる。


ベロ毒素

タンパク質。

病原性大腸菌O-157による食中毒で有名になった毒である。もともとは志賀赤痢菌の毒だったものが大腸菌に伝播したものであろう。リボソームでのタンパク合成を阻害する。腸管からの出血を伴う下痢を起こし、また腎臓を障害する(溶血性尿毒症)。脳にも出血などの障害を与える。


ボツリヌストキシン

分子量10万程度のタンパク質

ボツリヌス菌食中毒の原因物質。タンパク質である。末梢神経節でのアセチルコリンの遊離を阻害して神経伝達を遮断する致死性の高い毒である。しかし加熱によって分解して無毒化されるので熱を通した食品は、常温で放置しておいたりしない限りは安全である。なおボツリヌスとは腸詰めのことで古くからこれを食べて起こる食中毒として知られていたことを示している。なお筋肉の異常な緊張による痙攣の治療薬として利用されている。


リピドA

グラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖の成分。内毒素(エンドトキシン)の本体である。敗血症での発熱、血圧低下、循環障害といったショック症状、血小板凝集、腫瘍壊死因子やインターフェロンの誘発といった多彩な生理作用を示す。

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無機物の毒

 天然に存在する鉱物や気体の中にも毒性の強いものがあります。

一酸化炭素

CO

炭素を含む物質の不完全燃焼で生成する気体。その毒性は赤血球のヘモグロビン中の鉄原子と非常に強く結合し酸素運搬を阻害するためである。空気中に0.1%含まれれば人間は死亡するとされている。


カドミウム

Cd

イタイイタイ病の原因物質として有名。化学的性質は亜鉛に類似し、亜鉛精錬の副生物として得られる。体内に入ると腎臓を侵す。そのために体内のカルシウムイオンのバランスが崩れて、骨からカルシウムが溶出して骨軟化症になってしまう。


水銀

Hg

常温で唯一液体の金属。古代から知られ錬金術に使用されていた。水銀はヒ素と同様にチオール酵素を失活させて臓器を侵すほか、神経細胞に沈着し、特に小脳と運動神経を冒すため身体行動に異常が現れる。水銀は液体の状態では体内に吸収されにくいが、蒸気になると肺から吸収される。また無機水銀塩は消化器の粘膜を腐食する。水俣病の原因物質は有機水銀化合物の1つである塩化メチル水銀CH3HgCl。有機水銀化合物の水銀-炭素結合は他の有機金属化合物よりずっと安定であり環境に残存しやすい上、無機塩よりも体内に吸収されやすい。


タリウム

Tl

昔、お茶に入れられた物質(いつだったか忘れた)。タリウムを含むほとんどの化合物は有毒である。


ヒ素

As

一般にヒ素を含む化合物は有毒である。その毒作用はチオールを含む酵素に結合して失活させるために起こるとされる。激しい嘔吐、下痢、手足のしびれが主な症状である。カレーに入れられたのはヒ素の酸化物の亜ヒ酸As2O3。これは重症の虫歯で歯髄を殺して痛みを取るのに使われる。ヒ素自身はパソコンなどのIC、LSI等の半導体(ガリウムヒ素半導体)に使用されているため、これらの廃棄処理には注意が必要である。しかし、海藻類はヒ素を濃縮する性質があるので、一部の生物にとっては有害ではないのかも知れない。ヒ素は体外に排泄されにくく少量ずつの投与で暗殺するのに昔から使われてきたが、現在ではキレート剤(薬品名BAL)と呼ばれるヒ素と結合して排泄を助ける物質により解毒できる。また中毒患者からのヒ素の検出は容易で、なおかつ長期間に渡って可能であるために「愚者の毒薬」とも呼ばれている。

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人工的な毒

 人間が生み出した毒には、毒性があるが生活に役立つ農薬、殺傷目的の化学兵器、知らない間に生成していた環境ホルモン等があります。

アジ化ナトリウム

NaN3

最近はやりの物質。毒性はこの物質そのものより胃酸と反応して生成するアジ化水素HN3による部分が大きいと考えられる。アジ化ナトリウムは酸やほかの金属と反応して爆発性物質を生成する危険物である。また300℃以上で分解し金属ナトリウムと窒素になり発火しやすい。自動車のエアバッグに起爆剤として使用されていたらしいが、毒物指定されたため使用できなくなった。


アダムサイト

ヒ素を含む毒ガスである。殺傷を目的にしたものではなく、吸入した者に激しい嘔吐感を起こさせ行動不能にするガスである。ただし慢性的な毒性については不明。催涙ガスと組み合わせて使用されることもある。


塩素

Cl2

世界で最初に使われた毒ガス兵器(ということになっている)。黄緑色を帯びた気体で刺激臭がある。家庭内でも酸性洗剤と塩素系洗剤を混ぜることで簡単に発生する。吸い込むと肺にダメージをあたえ肺水腫による呼吸困難を引き起こす。また眼などの粘膜を刺激し炎症をおこす。


クレゾール

トイレなどの消毒等に使われる。左図はp体だが消毒薬はo,m,p体の混合物である。飲んだ場合は消化器官の粘膜を傷つけ、全身の臓器にダメージを与える。また皮膚からも吸収されるので注意が必要である。


クロロアセトフェノン

オーソドックスな催涙剤。一種の化学兵器ともいえる。外国では暴動鎮圧に使用されることがあるらしい。


クロロホルム

CHCl3

甘い?ようなにおいを持った液体。水道水に含まれるトリハロメタンとはこの物質のことである。吸い込むと多分麻酔される前に気持ち悪くなって激しくむせると思われる。研究室に現れたゴキブリの退治に効果的だが、肝臓への発ガン性があり排水での厳しい規制もあるくらいなので一般家庭での使用はやめたほうがよいでしょう。


サリドマイド

睡眠薬として開発された薬。しかし、妊娠中の服用によりアザラシ肢症の奇形児の発生が見られたため、日本では発売中止になっている。L体(左図)のみが催奇形性を持つとされているが、体内でD体とL体は相互変換するとも言われている。しかし、ハンセン病や難治性皮膚病、また骨髄移植後の移植片宿主病などに有効なことから、いくつかの国では限定的に使用が許可されている。


サリン

オウム真理教のおかげで有名になった毒ガス。開発者の名前の頭文字から命名された。類似するものとしてタブン、ソマン、VXガスがあり神経ガス化学兵器として知られている。パラチオンのように人体への毒性の弱い類似物質は農薬として使用される。いずれの物質も呼吸、皮膚浸透により体内に吸収されアセチルコリンエステラーゼという神経伝達において神経の興奮状態を抑える酵素を阻害する。その結果、神経はずっと興奮状態が持続し、縮瞳、徐脈、血圧上昇、発熱、呼吸異常など自律神経の異常による症状が現れ、重症ではショックで即死する。曝露後短時間のうちであればPAMという解毒剤により症状は改善する。またアトロピン(実はこれも毒物)により強制的に神経の興奮を抑えることにより症状を一時的に軽くすることはできる。


青酸

HCN

有名な毒である。単に青酸または青酸ガスといった場合はシアン化水素を指す。その塩である青酸ソーダ(シアン化ナトリウムNaCN)、青酸カリ(シアン化カリウムKCN)も猛毒である。その毒性は細胞内のミトコンドリアにおいて、酸素呼吸の電子伝達系を構成する酵素チトクロームcオキシダーゼを失活させ、酸素呼吸を不可能にすることによる。結果として青酸中毒患者は血液の酸素が消費されないためにまるで血色が良くなったように見える。解毒剤として 亜硝酸ナトリウムNaNO2+チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3がある。


ソマン

神経ガス。詳しくはサリンの項を参照。サリンより毒性が強い。


ダイオキシン

正式名称はポリクロロダイベンゾダイオキシン。特定の物質名ではなく一群の化合物を指す名称である。非常に強い変異原性、催奇形性を持ち、また内分泌攪乱物質でもある。特に左の図の2,3,7,8-テトラクロロダイオキシンは史上最強とさえいわれる毒性を持つ。ベトナム戦争に使用された枯葉剤に不純物として含まれていて奇形児の原因になったというのは有名。現在、ゴミ焼却により生成するものが大きな問題となっているがその原因物質および生成機構は必ずしも明確ではない。ポリ塩化ビニルや材木に使用される塩素を含む殺菌剤などがその塩素源として疑われている。


タブン

一番はじめに開発された神経ガスで、サリンよりは毒性が弱い(といっても十分に殺傷能力はあるが)。詳しくはサリンの項を参照。


DDT

DDTはジクロロジフェニルトリクロロエタンの略称だが、正式な物質名は1,1,1-トリクロロ-2,2-ビス(p-クロロフェニル)エタンである。日本では第二次世界大戦直後に殺虫剤として使用されたが、分解されにくく、その残留が問題となっている。


パラコート

除草薬である。体内に吸収された場合、還元されてラジカルとなり、さらに酸素を還元してスーパーオキシドアニオン(活性酸素の一種)を発生させる。そのため最も酸素が豊富な臓器である肺胞を主に破壊する。


パラチオン

有機リン系の農薬である。言ってみれば虫にとっては神経ガスになる物質である。人間に対する毒性もかなり強いために中毒事故が多発し、現在では使用禁止になっている。


PCB

ポリクロロビフェニルの略称。Clの数や位置によって多くの異性体がある。左図はその中の一例である。コプラナー(共平面形)PCBはカミネ油症事件を引き起こした物質であり、ダイオキシンと同様の変異原性、催奇形性を持つとされている。古い大容量コンデンサー内部に誘電体として使用されていることがある。


VXガス

サリンの項を参照。(今のところ)もっとも毒性が高く、長期残存性がある神経ガス。ガスと呼ばれているが、あまり揮発性はなく主に皮膚接触により体内に吸収される。


フルオロ酢酸

CH2FCOOH

酢酸のメチル基の水素が1つフッ素に置き換わったもの。この分子は体内にはいると酢酸CH3COOHと同様にTCA回路(クエン酸回路)に入り、途中までは代謝されるが、1つのフッ素のために回路を寸断してしまい、細胞はエネルギーを産出できなくなってしまい死んでしまうという猛毒物である。なお、類似化合物であるジフルオロ酢酸CHF2COOH、トリフルオロ酢酸CF3COOHは、体内にはいってもTCA回路に入らないため毒性がほとんどない。


ホスゲン

COCl2

干し草のようなにおいを持つ低沸点の液体。炭酸の酸塩化物に相当する。蒸気は吸い込むと肺にダメージをあたえ肺水腫による呼吸困難を引き起こす毒ガスである。大学の実験室での入手はもう不可能だが、化学工業ではまだ大量に使用されている。その用途は主にビスフェノールAとの反応によるポリカーボネートの製造である。なお、類似化合物のジホスゲン(塩化オキサリル)、チオホスゲンも同様の毒性を持つ。


マスタードガス

毒ガス。イペリットともよばれる(初めて使用された都市の名前から)。皮膚を激しくただれさせるビラン剤という種類である。しかもそれだけではなくDNAに対する強力なアルキル化作用を持ち、強い発ガン性を有することが知られている。中心のSをN-CH3に置き換えたナイトロジェンマスタードというものもあるが、こちらは一時期白血病に使用する抗ガン剤として研究されたこともある。


ルイサイト

ClCH=CHAsCl2

ヒ素を含む毒ガスである。マスタードガスと同じびらん剤に属する。

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ドラッグ

 ドラッグは中枢神経に作用して興奮、鎮静、鎮痛、幻覚、陶酔感などをもたらす薬物で、医療用でなく使用されるものを指します。すなわち酒やタバコ、コーヒー、茶といったものも本質的にはドラッグに含まれます。作用が強力なドラッグには所持使用の禁止や成人のみ使用可といった法的規制がかけられています。

アンフェタミン

法律上ではフェニルアミノプロパンと呼ばれる覚醒剤である。見て分かるように非常に単純な構造をしており簡単に合成できてしまう。この物質が覚醒剤だと知らずに合成してしまうおバカな学生もまれにいるらしいが、教授に大目玉をくらって証拠隠滅されることになる・・・


MDMA

メチレンジオキシメタンフェタミンの略称。エクスタシーの俗称で知られる。構造はメタンフェタミンに良く似ているが作用は幻覚剤に近い。視覚・聴覚に変化をもたらし、幸福感と性的な興奮をもたらす(多分この辺が俗称の由来だろう)。なお、アンフェタミンに対応するDMAの効果も類似しており、こちらはラヴドラッグの俗称で知られる。


LSD

リセルグ酸ジエチルアミドの略称で強力な幻覚剤である。麦角菌から得られるリセルグ酸の誘導体から合成によって得られる。アシッドの俗称を持つ。わずか0.1mg程度で視覚・触覚に対して幻覚をもたらし正常な判断を不可能にする。化学兵器としても使用される。


カフェイン

最初にコーヒー豆から発見された中枢神経を興奮させる作用を持つ物質。また強心作用、利尿作用もある。実はコーヒーより紅茶、緑茶に含まれる量の方がずっと多い。


コカイン

コカに含まれるアルカロイド。末梢の神経系を麻痺させるので、局所麻酔剤として使用された。が、習慣性が強いため今は他の薬を使う。プロカインはコカインを元に考案された習慣性のない局所麻酔薬である。中枢神経系(特に脳)には逆に興奮をもたらすらしい。コーク、クラック等の俗称がある。なおコカ・コーラには今は入っていません。


テトラヒドロカンナビノール

マリファナ、ハシッシュ(大麻)の活性成分。THCと略される。幻覚剤類似の作用(感覚の鋭敏化)に加え、麻薬類似の作用(陶酔感、多幸感)を持つ。大麻の慢性毒性については意見が大きく分かれているためここでは両方の意見を記述する。片方の意見では、長期間もしくは高濃度での連用で思考・判断能力の低下(大麻精神病)をもたらすという。もっともこれらの症状の発現は個人差が大きいとされる。もう片方の意見ではコーヒーやタバコと同程度の精神的依存性を持つだけで思考能力などを損なうことはないという。ヘロインのような禁断症状(身体的依存性)は知られていない。タバコのようにして吸入する使用法が有名である。この方法では熱により他の成分がTHCに変化するためTHCの吸入量が多くなるそうだ。しかしフィルターなしのタバコのようなものなので刺激性、発ガン性を持つタール分(タバコよりも多く含まれている)が呼吸器に悪影響をあたえるという。これはフィルターを使用すればよいだけの問題である。THCの薬理作用としては制吐作用、緑内障での眼圧低下、抗うつ作用などが報告されているらしい。欧米ではいくつかの国で解禁されているようであるので薬理活性、慢性毒性などのデータは今後検証されていくことになろう。日本では大麻の使用、所持、栽培、譲渡は研究目的、医療目的を含めて原則的に禁止されている(免許制)。なお、大麻取締法での「大麻」は成熟した草と種を除くとなっているが、これは大麻の成熟につれてTHCは分解されていくため、成熟した草や種にはTHCがほとんど含まれないためである。また同じ大麻に属する植物の中にはTHCを含まないものがあり産業用に利用されている。


PCP

フェンシクリジンという幻覚剤の略称。この物質はLSDと並ぶ強力な幻覚剤として知られる。エンジェルダストという俗称がある。麻酔作用があり、痛みを感じなくなるので結構たちが悪い(幻覚見て暴れだした奴を殴っても止められないから)。


ヘロイン

有名な麻薬である。モルヒネを無水酢酸で処理することで人工的につくられた誘導体である。もともとはモルヒネ中毒の治療のために薬としてつくられた(それ故に中毒治療のヒーローHeroという意味でHeroinと名付けられた)。しかし、実際はモルヒネよりも強い鎮痛・呼吸抑制作用をもち、陶酔感が強い。依存性を極めて起こしやすく、そこからの脱却も困難である。それ故に、医療、研究への使用さえも禁止されている薬物である。


モルヒネ

ケシの実に含まれるアルカロイドである。よく知られた麻薬のひとつ。強い依存性があるが、ガンの末期患者の鎮痛剤として有効である数少ない薬物であるため医療用に使用される。この物質を雛形にしてつくられた医薬品も多い。種々の化合物の研究によって、モルヒネ類似の作用にはN,N-Dialkyl-3,3-dialkyl-3-phenylpropanamineの部分構造が必要なことが見いだされている(これをモルヒネ則という。当然モルヒネはこの構造を満たしている)。


メスカリン

ペヨーテと呼ばれるサボテンに含まれている幻覚性物質。


メタンフェタミン

この塩酸塩の商品名ヒロポンが有名な覚醒剤である。現在はスピード、S、クリスタル、アイスなどの俗称で呼ばれているようだ。法律上ではフェニルメチルアミノプロパンと呼ばれる。アンフェタミンとはN上にメチル基があるかないかだけの関係である。医療用としては覚醒剤の名の通り、昏睡状態からの覚醒に使われる。また食欲中枢を抑制する作用があるので、似た構造の化合物が過食症や病的肥満の治療薬に使われているらしい(日本ではないと思う)。

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医薬

アスピリン

アセチルサリチル酸。プロスタグランジンの生成を阻害して炎症を抑え、また視床に作用して解熱する。少量のアスピリンは(常用量ではだめ)血液を凝固させる作用を持つトロンボキサンの生成を阻害するため心筋梗塞や脳梗塞の再発予防に使用される。古くから胃潰瘍や喘息発作を誘発したりする副作用が知られている。また幼児・児童ではライ症候群と呼ばれる致死的な内臓障害との関連が疑われているため原則として使用しない。(現在、薬局に売られている「小児用バファリンC」はアスピリンを含んでいません。)


イブプロフェン

抗炎症剤?


インドメタシン

抗炎症剤。


エリスロマイシン

マクロライド系(環員数の大きな環状エステルを持つ)抗生物質。


カイニン酸

海人草(海藻の一種)に含まれる物質である。回虫、ギョウ虫などの消化管に寄生する寄生虫の駆除に使用される(いわゆる虫下し)。また神経のグルタミン酸受容体に親和性があり、大量に摂取すれば中毒をおこす(はず)。


キニーネ

キナの樹皮から得られたアルカロイドで最初の抗マラリア薬。全身の代謝作用を抑制することによる解熱作用もある。一時期万能薬として取り引きされていたこともあり、この化合物についての研究が有機化学のさまざまな分野(合成・反応・構造決定)の研究を推進した時期もあった。


クエン酸シルデナフィル

ファイザー社のバイアグラの活性成分である。クエン酸は薬効には直接関与していない。シルデナフィルはNOの刺激により放出されたcGMPを分解する酵素を抑える作用を持ち、蓄積したcGMPが勃起を起こさせる。なお、cGMPは体内の他の臓器でも働いているが、この物質は性器のcGMP分解酵素を主に阻害する。が、ある程度は全身のcGMP分解を抑えるのでニトログリセリンなど(体内でNOを放出する物質)との併用は厳禁である(体内のcGMPの濃度増加により強い血圧低下や心筋梗塞を引き起こす)。


グリセオフルビン

抗真菌抗生物質。主に白癬菌(みずむしの原因になるカビの一種)に有効。細胞分裂時の紡錘糸形成を阻害して細胞分裂を阻害し、カビの生長を防ぐ。


グルタチオン

ほとんどの生物の細胞に含まれる物質で、還元性を持つ。体内に入った、または体内で生成した毒性物質の解毒に必要な物質である。中毒患者に毒物の代謝促進のために投与されることがある。


クロラムフェニコール

点眼・点耳用によく使用される抗生物質。造血機能を障害して再生不良性貧血をおこすため注射ではあまり用いない。なお耐性菌はヒドロキシ基をアセチル化して抗菌活性を失わせるらしい。


サルバルサン

ヒ素を含む抗原虫薬。梅毒の初めての治療薬として開発された。ヒ素の毒性もあると思われるので現在では他の薬を使っているだろう。


サントニン

ミブヨモギに含まれる物質である。回虫、ギョウ虫など消化管に寄生する寄生虫の駆虫薬として使用される(いわゆる虫下し)。


ジアゼパム

マイナートランキライザー(抗不安薬)。GABA受容体を活性化させて不安、緊張、抑鬱状態を緩和する。


シメチジン

H2ブロッカー、すなわち胃潰瘍、十二指腸潰瘍の薬である。胃酸の分泌に関連するヒスタミン受容体に結合し、ヒスタミンが受容体に結合するのを防ぎ、その刺激によっておこる胃酸分泌を抑制する。ちなみにH1ブロッカーというのは抗アレルギー性鼻炎薬でこちらはアレルギー反応に関連するヒスタミン受容体に結合する。ファモチジンなどが同様の薬効を持つ化合物として利用されている。


ストレプトマイシン

初めての抗結核薬として発見されたグリコシド系(糖が数個結合した構造)の抗生物質。


スルファジメトキシン

サルファ剤。細菌のp-メトキシ安息香酸から葉酸の合成を阻害して抗菌作用を示す。ただし細菌はp-メトキシ安息香酸をたくさん作って対抗するので、すぐに効かなくなる傾向がある。


セファレキシン

セフェム系(ペニシリン骨格部の5員環が6員環になったもの)の抗生物質。


タキソール

新規な抗ガン剤として期待される物質である。西洋イチイに含まれる微量物質である。細胞分裂時にDNA(染色体)を二つの細胞に分配する紡錘糸の脱重合を阻害し、正常な分配を妨害することによって細胞の増殖を抑制する。


チエナマイシン

カルバペネム系(ペニシリン骨格部のSがCに置換した構造)の抗生物質かつβ-ラクタマーゼ阻害剤。すなわちペニシリンに耐性を持つ菌にも効果がある。が、この阻害剤に阻害されないβ-ラクタマーゼを持つ耐性菌も存在する。


テガフール

抗ウイルス薬。体内でフルオロウラシルを遊離し、DNAの合成を阻害してウイルスの増殖を防ぐ。同様の機構でガン細胞の増殖を防ぐ抗ガン剤でもある。


テトラサイクリン

テトラサイクリン系(4つの縮合した環を持つ)の抗生物質。細菌のリボソームに結合してタンパク質合成を阻害する。


トラネキサム酸

止血剤。


トリアゾラム

睡眠薬ハルシオンの主成分。この睡眠薬の特徴は非常に強力な誘眠作用と効果が短時間しか続かないところにある。つまり飲んで眠くなった後には薬の作用ではない普通の睡眠に移行する(このような薬を睡眠導入薬という)。また抗不安薬としての作用もあり、快適な睡眠へと導く。副作用としては健忘症(飲んでから数時間の間の記憶がなくなる。当然、無理矢理起きていた場合に起こるのであるが。)が知られている。まれに幻覚を引き起こすこともあるらしい。また長期の使用は耐性と依存症を招きやすい。あと、この薬は致死量が大きいため自殺はできません。


ナイスタチン

ポリエン系(多数の二重結合を持つ)の抗生物質。細菌に対する抗菌力はないが、真菌や原虫の細胞膜のエルゴステロールに結合して膜機能を撹乱する。


ニトラゼパム

マイナートランキライザー(抗不安薬)。鎮静、抗痙攣作用も持っているため抗てんかん薬として利用される。


ノルエチステロン

ピルの主成分である。黄体ホルモンであるプロゲステロンと同様の作用を経口投与で示す。


バルビタール

昔から知られている睡眠薬。正式な名称は5,5-ジエチルバルビツル酸。芥川龍之介はこれで自殺したそうだ。バルビタール自身は現在ではあまり用いられていないようであるが、類似化合物が抗てんかん薬などに使用されている。


バンコマイシン

グリコペプチド系(糖とペプチドが結合した構造の)抗生物質。細菌の細胞壁の原料物質に結合して細胞壁の合成を阻害して抗菌作用を示す。MRSAなどの薬剤耐性の高い菌にも効くとされてきたが、この抗生物質にも耐性を持つ菌が現れている。


プロカイン

局所麻酔薬。


ブロムワレニル尿素

太宰治の「人間失格」に登場する睡眠薬カルモチンの成分である。あの小説は彼の自伝であると言われているが、実際に彼はこれを飲んで自殺しようとしたことがある。


ペニシリン

最も早く発見された抗生物質。いくつかの種類があり、左図はペニシリンG。分類としてはβ-ラクタム系に属する。β-ラクタム系抗生物質は細菌の細胞壁の合成を行う酵素を阻害する。細胞壁がない菌は容易に破壊されてしまう。ペニシリンにはペニシリンショックという激しいアレルギーが副作用として知られている。また、β-ラクタマーゼというこの系統の抗生物質を分解する酵素を持った細菌(いわゆる耐性菌)が発見されており万能ではない。


マーキュロクロム

赤チンキとして昔から傷口の殺菌に使用されてきた。低迷したのは水俣病で水銀化合物はなんでも有毒だということになったからだろうか?たしかに水銀を含む化合物であるが皮膚浸透性は低く、毒性はほとんどないと思われる。しかし流しに捨てたら問題になるだろう・・・


メチシリン

ペニシリン系の抗生物質。β-ラクタマーゼに対して安定である。しかしMRSA(耐メチシリン黄色ブドウ球菌)をはじめとする耐性菌はβ-ラクタム系抗生物質が結合できないような構造の細胞壁合成酵素を持っており、β-ラクタム系抗生物質全般を受け付けない。


ユビデカレノン

Coenzyme-Q。酸素呼吸の電子伝達系を構成する要素の1つ。強心剤として利用される。


レセルピン

キョウチクトウ科のインド蛇木に含まれるアルカロイド。血圧降下作用、鎮静作用がある。この作用は交感神経系でのドーパミンからノルアドレナリンへの変換を阻害して枯渇させ、神経伝達を遮断することによる。


ロベリン

キキョウ科ロベリア草に含まれる呼吸を昂進させる作用を持つアルカロイド。呼吸停止状態からの回復に薬として使用される。これを投与されるとタバコが嫌いになるという話もある。


ワルファリン

抗血栓薬。殺鼠剤としても使われる。

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その他

一酸化窒素

NO

高温で窒素と酸素が反応して生成する。不対電子をもつにも関わらず比較的安定という数少ない物質である(もっとも酸素とは非常に反応しやすい)。自動車の排気ガスなどに含まれ大気汚染公害の元凶とされているが、近年体内で一種のホルモンとして利用されていることが明らかになった(1998ノーベル生理学賞)。ニトログリセリンは体内でNOを放出し、血管を拡げて狭心症の発作をおさえる。バイアグラはNOの刺激により放出されるcGMPという物質の分解を阻害して効果をあらわすとされている。


塩化ベンザルコニウム

逆性石鹸としてよく知られている。手や器具の消毒に広く使用されている。


カテキン

緑茶をはじめとする多くの植物性食品に含まれるポリフェノールの一種。殺菌力が高く、ガン予防作用がある。


β-カロテン(カロチン)

多くの植物に色素として含まれているが、特に緑黄色野菜に大量に含まれる。体内に吸収されるとビタミンAに変化する。


キシリトール

ショ糖と同程度の甘さを示すので糖尿病患者用の甘味料として使用されていたが、最近は虫歯にならない甘味料として一般向けに使用されている。体内では酸化されて植物の細胞壁の構成成分であるキシロースになるので一応無害。


ダイゼイン

その名が示す通り、大豆に含まれるポリフェノールの一種。経口投与によって女性ホルモン様作用を示すことが明らかにされている(つまり天然に存在する環境ホルモンとも言える。ただ内分泌「攪乱」というほどは強い作用ではないようである)。ホルモンバランスが崩れによる更年期障害や男性の頭髪が薄くなるのを軽減するらしい。


ディート

虫よけに含まれる。蚊が嫌うにおい(警告フェロモンの一種か?)を発しているらしい。


PAM

プラリドキシムヨウ化メチル。サリン等有機リン系神経ガスの解毒剤として知られる。アセチルコリンエステラーゼに結合した神経ガス分子を追い出し、自分自身がエステラーゼに結合する。その後自然に解離しエステラーゼを再生する。問題点は曝露後短時間に投与されなければ効果が無い点で、これは神経ガスが結合したエステラーゼが時間が経つにつれ、PAMによる再生が不可能な形に分解していくことによる。現在のところPAMによる再生が不可能な形になったエステラーゼを再生させる薬は存在しない。また一部の神経ガスに対しては効果が全くない。


ビタミンA

レチノールともいう。肝臓で異性化および酸化されて11-cis-レチナールとなってから、網膜のタンパク質オプシンと結合し光感受物質ロドプシンとなる。また、粘膜を保護する粘液の分泌にも関与している。ビタミンAの不足はロドプシンの不足となるため光量の少ない夜間に視力が低下する夜盲症や皮膚や粘膜の乾燥をもたらす。逆に過剰の摂取は光線過敏症という皮膚の過敏症となる(アワビを猫に食べさせると耳が落ちるというのは、この症状で耳がかゆくなってちぎれてしまうほど引っかくからだという。)


ビタミンB1

チアミンともいう。このビタミンの欠乏症が脚気である。生体内では還元性物質として糖の代謝で重要な役割を果たしている。


ビタミンB2

リボフラビンともいう。体内ではFADという細胞の呼吸等で重要な役割を持つ還元性物質となる。不足した場合、細胞分裂が阻害されるために粘膜の傷が修復されにくくなり炎症を起こす(主に口内炎になる)。


ビタミンC

アスコルビン酸ともいう。このビタミンは還元性物質であり種々の酵素の働きを助ける他に、活性酸素の消去などを行う。必ずしも明らかではないが免疫の増強などの薬理作用があるとも言われている。なお、欠乏するとコラーゲンの生成ができなくなり血管壁が弱くなるため出血しやすくなる(壊血病とよばれる)。酸味がある。


ビタミンD3

コレカルシフェロールともいう。側鎖にメチル基が1つ多く二重結合を持つビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とともに骨からのカルシウムの溶解と沈着を調節し、体内のカルシウムの濃度を一定に保つ。人間はビタミンD3を体内でコレステロールから合成できるが、その過程には紫外線が必要である。細胞の分化誘導作用やガン細胞の増殖抑制作用といった薬理作用を持っている。欠乏症は骨の変形(くる病)である。


ビタミンE

α-トコフェロールともいう。妊娠の持続や血管の弾力性の維持に関与している。また活性酸素の消去にも関与している。欠乏は不妊症や貧血の原因になる。抗酸化作用があり、また味がほとんどないので食品に酸化防止剤(保存料)として添加される。


ビタミンK1

フィトナジオンともいう。ほとんどの野菜に含まれるので普通は欠乏しないが、乳児では欠乏症である出血を示すことがある。これは母乳にはビタミンKがあまり含まれないためである。粉ミルクはビタミンKを添加してある。また医師がビタミンKを処方することもあるそうだ。


ピレスロイド

ムシヨケギク(除虫菊)の花から得られる天然殺虫剤。ピレトリン、シネリン、ジャスモリンといった物質の総称。主に蚊の駆除に使用される。左の構造式はピレトリンIのものであり、ピレトリンIIやシネリン、ジャスモリンでは分子の両末端の構造が少し異なる。


プロスタグランジン

体内(主に血管内)で微量つくられ血液凝固促進・阻止、胃酸分泌抑制、分娩誘発等の多彩な作用をもつ一群の物質である。また近縁物質としてトロンボキサン(血液凝固促進)、プロスタサイクリン(血液凝固阻止)、ロイコトリエン(白血球遊走促進、気管支収縮)などといった物質が存在する。左図は最も典型的なプロスタグランジンの構造を持っているプロスタグランジンF。活性体は強力な生理作用を持つが、多くはきわめて不安定で数分から数時間で分解して不活性化される。安定化した類似品や体内で活性体に変化する物質は医薬として使用されている。一方で、生のオゴノリ(刺身のツマにされる海藻)を刻んだときに切り口で大量に合成されていて、これを食べた人間が食中毒を起こした例もある(市販の刺身のツマは石灰で処理されて無毒化してある)。

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